新人エンジニア研修を革新する脳科学!「海馬」と「レミニセンス効果」で記憶をハックする研修設計術

こんにちは。ゆうせいです。

新人エンジニア研修の講師の皆さん、毎日お疲れ様です!熱意を込めて教えたはずのプログラミングの知識やITの基礎が、数週間後にはすっかり忘れられてしまっていた…なんて、少し寂しい気持ちになった経験はありませんか?

「どうしてあんなに丁寧に教えたのに、覚えてくれていないんだろう…」

その悩み、実は脳の仕組みを知ることで解決できるかもしれません。答えの鍵を握っているのは、私たちの脳の「記憶」メカニズムです。

今回は、記憶の司令塔である「海馬(かいば)」と、脳の熟成時間とも言える「レミニセンス効果」という2つのキーワードを軸に、新人エンジニアたちの記憶に深く刻まれる効果的な研修を設計する方法を、一緒に学んでいきましょう!

記憶の司令塔「海馬」を理解しよう!

まずは、私たちの記憶システムの中心にいる「海馬」について知ることから始めましょう。

海馬って何者?記憶の門番を知ろう!

さて、いきなり「海馬」という専門用語が出てきましたね。安心してください、まったく難しくありませんよ。

海馬は、脳の奥深くにある、タツノオトシゴのような形をした部分です。その主な役割は、日々の出来事や学習した内容を「短期記憶」として一時的に保管し、その中から「これは将来も必要になりそうだぞ」という重要な情報だけを選び出して、「長期記憶」の倉庫へと送り出すことです。

例えるなら、海馬は「記憶の図書館の受付カウンター」のようなものだと考えてみてください。

毎日、たくさんの新しい本(情報)がカウンターに届けられます。海馬という受付係は、その本一冊一冊を吟味して、「これは貴重だから、しっかり本棚にしまっておこう(長期記憶)」とか、「これは一時的なチラシみたいなものだから、すぐに捨ててしまおう(忘れる)」といった仕分け作業を行っているのです。

つまり、研修内容を忘れずに覚えてもらえるかどうかは、この海馬の受付係に「重要情報だ!」と認めてもらえるかにかかっている、というわけですね。

海馬をハックせよ!長期記憶に残す3つの秘訣

では、どうすれば海馬に「これは超重要だ!」と判断させることができるのでしょうか?海馬の受付係には、「こういう情報は重要だと判断しやすい」という、いくつかの好み(判断基準)があります。

その好みを逆手にとって、研修内容をデザインしていきましょう。主な秘訣は3つです!

秘訣1:感情を揺さぶれ!(情動)

1つ目の秘訣は、感情に訴えかけることです。

脳の中では、記憶を司る海馬のすぐ隣に、「扁桃体(へんとうたい)」という感情を司る部分があります。この2つは非常に仲が良く、私たちが「嬉しい!」「悔しい!」「面白い!」といった感情を抱くと、扁桃体が興奮して、隣の海馬に「おい、今の情報、めちゃくちゃ重要だから絶対に覚えておけよ!」と強いシグナルを送るのです。この感情の動きを専門用語で「情動(じょうどう)」と呼びます。

高校時代、ただ教科書を読んだだけの歴史の年号は忘れても、文化祭でクラス一丸となって作り上げた演劇のセリフは鮮明に覚えていませんか?あれこそが、感情の力が記憶を強固にした証拠です。

  • 具体的な応用例
    • 単に技術を教えるだけでなく、「この技術が生まれた背景には、こんな開発者の熱い想いがあったんだ」というストーリーを語る。
    • 演習でうまくいったチームがいれば、みんなの前で大いに褒め、成功体験という「嬉しい」感情を共有する。

知識を無味乾燥な情報として渡すのではなく、感情という名のスパイスを振りかけてあげることが大切です!

秘訣2:何度も出会わせろ!(反復)

2つ目の秘訣は、シンプルですが非常に強力な「繰り返し」です。

海馬は、「何度もやってくる情報=それだけ生きる上で重要な情報に違いない」と判断する傾向があります。同じ情報が何度も海馬を通過すると、脳の神経細胞同士のつながり(シナプスと言います)がだんだんと太く、強固になっていきます。この現象を「長期増強(LTP: Long-Term Potentiation)」と呼びます。

例えるなら、記憶の定着は、野原に道を作るようなものです。毎日同じ場所を繰り返し歩いていると、次第に草が踏み固められ、くっきりとした道ができますよね。脳の中の神経回路も、繰り返し使うことで記憶という名の道が作られていくのです。

ただし、忘れる前に復習することが重要です。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが提唱した「忘却曲線」によると、人の記憶は驚くべき速さで失われていきます。

経過時間記憶している割合(節約率)
20分後約58%
1時間後約44%
1日後約26%
1週間後約23%
1ヶ月後約21%

この曲線を意識して、適切なタイミングで復習の機会を設けることが、研修効果を最大化する鍵となります。

  • 具体的な応用例
    • 研修の冒頭で、必ず前日の内容に関する簡単なクイズやディスカッションを行う。
    • 1週間前に教えた内容を、今日の演習課題の中にさりげなく盛り込んでおく。

一度教えたら終わり、ではダメです!何度も何度も、手を変え品を変え、学んだ知識に再会させてあげましょう。

秘訣3:仲間とつなげろ!(関連付け)

最後の秘訣は、新しい知識を、すでに持っている知識や経験と結びつける「関連付け」です。

海馬は、まったく無関係でバラバラな情報を覚えるのが苦手です。逆に、すでにある知識のネットワークに新しい情報をフックのように引っ掛けられると、「ああ、これはあの話の続きだな」とすんなり理解し、整理して記憶の棚にしまいやすくなります。関連する情報をひとつの意味のある「塊」として覚える「チャンク化」も有効です。

例えば、public, static, void, main…といったキーワードを一つ一つバラバラに覚えさせようとしても、新人にはただの呪文にしか聞こえません。そうではなく、「これはJavaプログラムを動かすための、お決まりのスタートの合図なんだよ」という一つの意味のある塊(文脈)として教えてあげることが重要です。

  • 具体的な応用例
    • ネットワークの仕組みを教える際に、「手紙を書いてポストに投函し、相手の住所に届くまでの流れとそっくりだよね」と、身近な例え話で関連付ける。
    • 複数のコマンドを教えるときは、それらを組み合わせるとどんな便利なことができるのか、という一連のストーリー(ユースケース)の中で紹介する。

新しい知識を孤立させるな!必ず、彼らがすでに持っている知識の海へとつなげてあげてください。

脳の熟成期間「レミニセンス効果」を味方につけよう!

さて、海馬をハックして重要な情報を送り込む方法がわかりました。しかし、ここで一つ不思議な現象について考えてみませんか?

研修直後のテストでは解けなかった問題が、一晩寝て次の日になったらスラスラ解けるようになった…そんな経験、受講者の様子を見ていて感じたことはありませんか?

この現象こそ、記憶の定着におけるもう一つの重要な鍵、「レミニセンス効果」の仕業なのです。

秘訣4:脳に熟成の時間を与えよ!(レミニセンス効果)

4つ目の秘訣は、脳に情報を整理・定着させる「熟成時間」を与えることです。

「レミニセンス効果」とは、何かを学習した後、一定の休息期間を置くことで、直後よりも記憶やスキルが向上する現象を指します。学習した情報は、海馬から長期記憶の倉庫に送られた後、すぐに完璧に整理されるわけではありません。脳は、私たちが休息している間、特に睡眠中に、その情報を整理整頓し、既存の知識と統合して、より取り出しやすい形に整えてくれているのです。

先ほどの図書館の例えで言うなら、受付係(海馬)が本棚に送った本を、夜間に司書さん(脳)が時間をかけて適切な分類コードをつけ、正しい棚に並べ直してくれるイメージです。この整理作業があるからこそ、翌日にはスムーズに本(記憶)を取り出せるようになります。

このレミニセンス効果を研修に活かさない手はありません!

  • 具体的な応用例
    • 意図的な休憩と睡眠を促す: 詰め込み研修は絶対にNGです。講義と演習の間に必ず休憩を挟み、「今日の研修内容は、寝ている間に脳が整理してくれるから、今夜はしっかり寝てくださいね!」と睡眠の重要性を伝えましょう。
    • 分散学習をカリキュラムに組み込む: 1日で一つの技術を完璧に教え込もうとするのではなく、数日間に分けて学習する「分散学習」を取り入れましょう。例えば、月曜に基本を教え、水曜にその応用演習を行うといった形です。間に睡眠という熟成期間を挟むことで、知識が格段に定着しやすくなります。
    • すぐに結果を求めない: 研修直後の理解度で一喜一憂しないこと。講師自身が「脳には熟成時間が必要だ」と理解し、受講者がすぐに答えられなくても焦らず、少し時間を置いてから再度質問するなど、長い目で見守る姿勢が大切です。

脳科学的アプローチのメリット・デメリット

こうした脳の仕組みに基づいた研修設計は、非常に効果的ですが、いくつか心に留めておくべき点もあります。

  • メリット
    • 受講者の記憶定着率が格段に上がり、研修で学んだスキルが現場で活かされやすくなる。
    • 受講者が「面白い!」「なるほど!」と感じる瞬間が増え、学習へのモチベーションが向上する。
    • 「分かりやすい」「ためになる」という評価を得られ、講師としての信頼が高まる。
  • デメリット
    • 単に教科書の知識を順番に話すだけの研修に比べ、ストーリーを考えたり、効果的な演習を設計したりするための準備に時間がかかる。
    • 感情に訴えかけるには、講師自身がその技術やテーマに対して情熱を持っている必要がある。
    • 受講者の反応を見ながら進める必要があるため、アドリブ力やファシリテーション能力も求められる。

準備の手間はかかりますが、それに見合うだけの、いや、それ以上のリターンが必ずあるはずです!

さあ、あなたの研修を進化させよう!

今回は、脳の仕組みに基づいた研修設計術として、「海馬」をハックする3つの秘訣(感情、反復、関連付け)と、脳の熟成を促す「レミニセンス効果」の活用法をご紹介しました。

いきなり全てを取り入れるのは難しいかもしれません。まずは、次回の研修でどれか一つでも試してみませんか?

例えば、研修の冒頭5分で、あなたがその技術に出会って感動した時の話をしてみる。あるいは、研修の最後に「今日の内容は焦って覚えなくて大丈夫。一晩寝ると、明日にはもっとスッキリ理解できるようになりますよ」と一言添えてみる。

そんな小さな一歩が、あなたの研修を劇的に変えるきっかけになるはずです。

もし、さらに学びを深めたいと感じたら、「認知心理学」や「教育工学」といった分野の本を読んでみることをお勧めします。「アクティブラーニング」や「反転学習」といった、現代の教育手法について調べてみるのも、きっとあなたの引き出しを増やしてくれるでしょう。

あなたの情熱あふれる研修が、新人エンジニアたちの輝かしい未来を切り拓く、最高の記憶となることを心から願っています!

セイ・コンサルティング・グループでは新人エンジニア研修のアシスタント講師を募集しています。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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