社長、その自社株いくらか知っていますか?「取引相場のない株式」の評価方法をズバリ解説
こんにちは。ゆうせいです。
研修講師の皆さん、経営者向けのセミナーや事業承継の研修で、こんな質問をされて冷や汗をかいたことはありませんか。
「うちみたいな中小企業の株って、どうやって値段が決まるの?」
「上場してないから、株価なんて関係ないよね?」
もし、受講者が「関係ない」と思っていたら、それは非常に危険なサインです。実は、相続税の現場で最もトラブルになりやすく、かつ高額な税金が発生する原因の一つが、この「取引相場のない株式」なのです。
「値段がないのに、税金がかかるの?」
そう不思議に思う初心者の受講者に向けて、今日はこの難解なテーマをスッキリと理解してもらうための解説テクニックをお伝えします。専門的な計算式を覚える必要はありません。「考え方の物差し」を渡してあげるだけで、あなたの講義は劇的に分かりやすくなりますよ。
そもそも「取引相場のない株式」とは
まずは言葉の定義から入りますが、ここを難しく説明してはいけません。シンプルにこう伝えてください。
「証券取引所で売買できない、普通の会社の株式のこと」
上場企業の株なら、スマホを見れば「今の株価は1000円」とすぐに分かりますよね。これを「取引相場がある」と言います。スーパーで値札がついている野菜と同じです。
一方で、オーナー社長が経営する中小企業の株には、どこにも値札がついていません。これは、家庭菜園で作った野菜のようなものです。市場に出回らないから値段が分からない。
しかし、社長が亡くなってその株を子供が相続するとき、国税庁はこう言います。
「値札がないなら、ルールを決めて計算しましょう。タダではありませんよ」
この「無理やり値札をつけるためのルール」が、今回のテーマです。
会社の「規模」で計算方法が変わる
値札のない株の値段を決める際、国は会社を3つのサイズに分けます。ボクシングの階級や、Tシャツのサイズ(L・M・S)をイメージしてください。
- 大会社(大企業並みの規模)
- 小会社(個人商店に近い規模)
- 中会社(その中間)
なぜ分けるのでしょうか。それは、会社の規模によって「何と比較するのが正しいか」が変わるからです。
ここからは、代表的な2つの計算アプローチを解説します。ここが一番の山場ですので、例え話を使いましょう。
1. 類似業種比準方式(るいじぎょうしゅひじゅんほうしき)
漢字が並んでいて、受講者が拒否反応を示す言葉です。ですので、こう言い換えてください。
「ライバルの上場企業のマネをして値段を決める方法」
これは主に「大会社」や「中会社」で使われます。
「あなたの会社は規模が大きいから、似たようなビジネスをしている上場企業の株価を参考にしましょう」という考え方です。
計算のイメージは以下の通りです。
自社の株価 似ている上場企業の株価
( 自社の利益や資産などの要素
上場企業の要素 )
「あそこの上場企業より、うちは利益が半分くらいだから、株価も半分くらいかな」といった具合に、背比べをして値段を決めます。
2. 純資産価額方式(じゅんしさんかがくほうしき)
こちらは主に「小会社」で使われます。
「会社を今すぐ解散して、バラバラにして売ったらいくら残るか」という考え方です。
計算式は非常にシンプルです。
株価の総額 会社の全財産
会社の全借金
会社が持っている土地、建物、現金をすべて足して、そこから借金を引きます。残った価値(純資産)を株数で割って、1株あたりの値段を出します。
「小会社」はオーナー個人の財布と会社の財布が近い関係にあるため、会社の持っている財産価値そのものを株価と見なすわけです。
誰が株をもらうかで世界が変わる
さて、ここからがさらに面白い(そして怖い)ところです。
実は、同じ会社の株でも、「誰がもらうか」によって値段が劇的に変わるのです。これを「配当還元方式(はいとうかんげんほうしき)」と言います。
社長一族(経営権を持つ人)がもらう場合
これまで説明した「高い評価額(類似業種比準方式や純資産価額方式)」が適用されます。なぜなら、その株を持てば会社を自由に支配できるからです。強い権力には、高い税金がかかります。
少数株主(経営に関係ない親戚や従業員)がもらう場合
会社の支配権を持たない人が株をもらう場合、その株の価値は「配当金をもらえる権利」くらいしかありません。
そのため、「特例的な安い評価額」にしてくれます。
「あくまでお小遣い(配当)をもらうためのチケットだから、安く評価してあげるよ」というわけです。
この違いを知らないと、「従業員に株を持たせたら、買い戻すときに社長と同じ高い値段がついた」なんて勘違いが起きかねません。
メリットとデメリットを整理しよう
この評価方法の特徴を、メリット・デメリットとして整理します。
メリット
- 業績が悪ければ株価も下がる利益が出ていない時期や、赤字の時期は、計算上株価が低くなります。このタイミングを狙って贈与(生前に渡すこと)を行えば、税金を安く抑えることができます。
- 事前のシミュレーションが可能上場株のように毎日乱高下しないため、決算書さえあれば、ある程度正確に「今の株価」を計算できます。対策を立てる時間が十分にあります。
デメリット
- 業績が良いと驚くほど高額になる創業から長く続き、内部留保(過去の利益の蓄積)が厚い会社は要注意です。「純資産価額方式」で計算すると、土地や現金の価値がそのまま反映されるため、想定外の高値になることがあります。
- 換金できないのに税金だけかかるこれが最大の悲劇です。相続税は原則として現金一括払いです。しかし、この株は市場で売れません。「評価額は数億円、でも手元に現金がない」という状態になり、相続税を払うために会社が借金をする、なんてことになりかねません。
今後の学習の指針
いかがでしたか。「見えないものに値段をつける」という不思議な世界ですが、ルールには一定の合理性があることが分かっていただけたかと思います。
講師の皆さんが次に学ぶべきステップは、「株価を下げるための具体的な対策」についてです。
「役員退職金を払って純資産を減らす」
「不動産を購入して評価を下げる」
といった手法がよく使われますが、これらがなぜ有効なのか、今回の「計算式の理屈」が分かっていれば、すぐに理解できるはずです。
最後に、受講者にはこう伝えてあげてください。
「自社株の評価は、会社の健康診断と同じです。まずは今の値段を知ることから始めましょう」
この記事が、あなたの講義をより深く、魅力的なものにする手助けになれば嬉しいです。
それでは、また次の記事でお会いしましょう!