【エンジニア必見】なぜ川と血管の形は似ているのか?「コンストラクタルデザイン」超入門

こんにちは。ゆうせいです。

あなたは、ふとした瞬間に自然界の形を見て不思議に思ったことはありませんか?

たとえば、大きな木の枝分かれ、雷のイナズマ、あるいは私たち自身の肺の血管や、大地の川の流れ。これらが驚くほど似た形をしていることに気づいたとき、そこに隠された「共通のルール」があるとしたら、ワクワクしませんか!

今日は、そんな自然界の法則を工学に応用する画期的な考え方、コンストラクタルデザインについてお話しします。

新人エンジニアの皆さんが、これから設計やシステム構築に携わるうえで、この視点を持っていると設計の質が劇的に変わるはずです。難しそうな名前ですが、中身はとてもシンプルで美しい法則なんですよ。

コンストラクタルデザインとは何か

まず、この聞き慣れない言葉の意味から紐解いていきましょう。

コンストラクタルデザインとは、一言で言えば「流れを良くするために、形が自然に進化する法則をまねて設計すること」です。

ここでのキーワードは「流れ」です。

工学の世界では、電気、熱、流体(水や空気)、そして時にはデータや交通量など、さまざまなものが流れますよね。これらの流れが、いかに抵抗なく、スムーズに目的地までたどり着けるか。それを追求すると、必然的にある決まった形(デザイン)にたどり着くのです。

専門用語:有限サイズの流動システム

少しだけ専門的な話をしますね。この理論の生みの親であるエイドリアン・ベジャン教授は、これを「有限サイズの流動システム」という言葉で説明しています。

ちょっと難しそうに聞こえますか?大丈夫、高校生の物理レベルでイメージしてみましょう。

たとえば、満員電車から降りた人々が改札に向かう様子を想像してください!

電車という「点」から、駅の外という「面」へ人が流れていきます。最初は太い通路(幹線)を通り、次第に細い道(支線)へと分散していきますよね。あるいは逆に、多くの支流が合流して大きな川になる様子も同じです。

このとき、システム(駅や川)は「より流れやすく(アクセスしやすく)」なるように、時間の経過とともに形を変えようとします。これをコンストラクタル法則と呼びます。

なぜ「あの形」になるのか

では、なぜ川も血管も、木の枝のような形になるのでしょうか。

答えはシンプルです。それが物理的に最も効率が良いからです。

流れには必ず「抵抗」があります。

太いパイプと細いパイプでは、流れやすさが違いますよね。

全体を効率よく流すためには、すべてを太くすることはできません(スペースやコストに限りがあるからです)。かといって、すべてを細くすると詰まってしまいます。

そこで自然界は、次のようなバランスを見つけ出しました。

  • 長い距離を移動するときは、抵抗の少ない「太い道」を使う
  • 隅々まで行き渡らせるときは、拡散しやすい「細い道」を使う

この2つを組み合わせると、必然的に「太い幹から枝分かれして細い葉脈へ」というツリー構造が生まれるのです。これをエンジニアが意図的に設計に取り入れるのが、コンストラクタルデザインの真髄です。

エンジニアにとってのメリットとデメリット

この理論を実際の仕事に取り入れると、どんな良いことがあり、逆にどんな苦労があるのでしょうか。正直にお伝えしますね。

メリット:根拠のある設計ができる

最大のメリットは、設計の根拠が明確になることです。

「なんとなくカッコいいから」や「経験則でこうだから」ではなく、「物理的に最も熱が逃げやすい形はこれだ」と数学的に証明された形状を採用できます。

たとえば、パソコンのCPUを冷やすヒートシンク(放熱板)を設計するとしましょう。

コンストラクタルデザインを用いれば、限られたスペースの中で、どのくらいの太さのフィンを、どのような間隔で配置すれば、最も効率よく熱を空気中に逃がせるかが計算で導き出せます。無駄な試行錯誤を減らせるのは嬉しいですよね!

デメリット:製造の難易度が上がる

一方で、デメリットもあります。それは、形が複雑になりがちだということです。

自然界の形を模倣したツリー構造や複雑な分岐は、従来の直線的な加工や単純な金型では作るのが難しい場合があります。

3Dプリンターなどの技術も進歩していますが、コストとの兼ね合いを考える必要があります。理論上は最高でも、工場で作れなければ意味がありません。ここはエンジニアの腕の見せ所ですね。

明日から使える視点

ここまで読んでくれたあなたなら、もう世界の見え方が少し変わっているかもしれません。

これからあなたが設計図を描くとき、あるいはシステムのフローチャートを書くとき、一度立ち止まって問いかけてみてください。

「この流れは、スムーズだろうか?」

「無理やり直角に曲げたり、急激に細くしたりして、流れを殺していないだろうか?」

水や電気だけでなく、物流や情報の流れであっても同じです。滞りがある場所には、必ず無駄なエネルギー消費やストレスが発生します。自然界が数億年かけて導き出した「形」をお手本にして、無理のないスムーズな設計を目指してください。

今後の学習のロードマップ

最後に、これからもっと深く学びたいあなたへの指針を示して終わりにしますね。

  1. 流体力学と熱力学の基礎を固めるまずは高校物理の復習からで構いません。圧力、抵抗、伝熱といった基本概念をしっかり理解しましょう。
  2. エイドリアン・ベジャンの著書に触れる『流れとかたち』などの邦訳書が出ています。数式も出てきますが、哲学的な部分を読むだけでも面白いですよ。
  3. 身近な製品の「形」を観察する最新のエアコンの室外機や、高性能なラジエーターなどを見てください。なぜその形なのか、仮説を立ててみるのが一番の勉強になります。

自然は最高の教科書です。ぜひ、その知恵をあなたのエンジニアリングに取り入れてみてください!

それでは、また次の記事でお会いしましょう。

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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