【売れない商品が宝の山?】「ロングテール」と「フラクタル」の奇妙な関係
こんにちは。ゆうせいです。
あなたはネットショッピングをしていて、ふと「こんなマニアックな商品、一体誰が買うんだろう?」と思ったことはありませんか?
実は、その「誰も買わなさそうな商品」こそが、Amazonのような巨大企業の利益を支えているとしたら、信じられますか!
今日は、Web業界で必ず耳にする「ロングテール」という言葉と、それが自然界の「フラクタル」という法則とどうつながっているのかをお話しします。
新人エンジニアの皆さんがこの仕組みを理解すると、サーバーの負荷対策やデータベースの設計といった、システムの見え方がガラリと変わりますよ。
ロングテールってなに?
まずは「ロングテール」の正体から暴いていきましょう。
これは、マーケティングの世界で使われる言葉です。
お店の商品の売上をグラフにしてみると分かりやすいです。
縦軸に「売上」、横軸に「人気順」に商品を並べたと想像してください。
左側には、爆発的に売れている人気商品(ヘッド)が高い山を作ります。しかし、右に行くにつれて売上は急激に下がり、あとは地面スレスレの低い線が、右の方へずーっと長く伸びていきますよね。
この右側に長く伸びた、あまり売れない商品群の部分が、まるで「恐竜の長いしっぽ(テール)」のように見えることから、「ロングテール」と呼ばれています。
塵も積もれば山となる
普通のお店(コンビニやスーパー)では、棚のスペースに限りがあるため、売れる「ヘッド」の商品しか置きません。
しかし、ネットショップには棚の制限がありません。
1年に1個しか売れないような「しっぽ」の商品でも、数百万種類集めれば、その売上の合計は、なんと人気商品たちの合計売上を上回ることがあるのです。これがロングテールの魔法です。
フラクタルとの不思議な関係
さて、ここからがエンジニアとして面白い部分です。
このロングテールのグラフ、実は「フラクタル」という構造と深い関係があります。
フラクタルとは、「拡大しても拡大しても、全体と同じ形が現れる構造(自己相似性)」のことです。
野菜のブロッコリーを思い浮かべてください。
一房ちぎって見ても、元のブロッコリーと同じような形をしていませんか? さらに小さくちぎっても、やっぱり同じ形です。自然界では、リアス式海岸の形や、稲妻の形、そして私たちの血管の分岐なんかもフラクタル構造です。
拡大しても「しっぽ」はなくならない
ロングテールのグラフも、実はこれと同じ性質を持っています。
たとえば、「音楽CD」というジャンル全体でロングテールが見られたとします。
そこから「ジャズ」というニッチなジャンルだけを切り出して拡大してみましょう。するとどうでしょう。その中にもやっぱり、少数の超人気盤(ヘッド)と、無数のマイナー盤(テール)が存在するのです。
さらに「1960年代のフリージャズ」まで絞り込んでも、やはりそこには小さなロングテールが現れます。
つまり、どれだけマニアックな市場(ニッチ)に潜り込んでも、そこには必ず「人気」と「不人気」の構造が金太郎飴のように現れるのです。これを数学的には「べき乗則」や「べき分布」と呼びます。
数式で書くと、頻度 f(x) は、ある定数 a と指数 k を使って、次のような関係になります。
f(x)
a
x
難しそうに見えますが、「順位 x が下がると、頻度 f(x) はものすごい勢いで下がるけれど、決してゼロにはならない」という意味だと思ってください。
エンジニアが知っておくべき「テールの代償」
「ふーん、面白いね」で終わらせてはいけません!
このロングテールの性質は、システムを作る私たちにとって、無視できないメリットとデメリットをもたらすからです。
メリット:無限のコンテンツを扱える
ロングテールの力を活かすシステム(検索エンジンやECサイト)を作れば、ユーザーのあらゆるニッチな要望に応えることができます。これはサービスの価値を爆発的に高めます。
デメリット:キャッシュが効かない!
ここが重要です。エンジニアにとっての天敵、それは「キャッシュ効率の悪さ」です。
Webシステムでは、よくアクセスされるデータ(ヘッド部分)をメモリなどの高速な場所に一時保存(キャッシュ)して、表示を速くします。
しかし、ロングテールの部分にある膨大な数の「たまにしかアクセスされないデータ」は、どうすればいいでしょうか?
種類が多すぎて、すべてをキャッシュに乗せることは不可能です。かといって、キャッシュに乗せないと、毎回データベースから読み込むことになり、遅くなります。
「アクセスの大半はヘッドに集中するが、データ量の大半はテールにある」
このジレンマと戦うのが、大規模システムを設計するエンジニアの腕の見せ所なのです。
今後の学習の指針
ロングテールとフラクタルの関係、少しイメージできましたか?
一見バラバラに見えるデータの中に、美しい数学的なルールが隠れているなんて、ロマンがありますよね。
最後に、これからさらに深く学びたいあなたへ、次のステップを提案します。
- 「複雑ネットワーク」について調べるGoogleの検索アルゴリズムや、SNSの友人のつながりも、実はこのロングテール(スケールフリーネットワーク)の性質を持っています。
- NoSQLデータベースを触ってみるロングテールのような膨大な種類のデータを扱うには、従来のリレーショナルデータベース(RDB)よりも、Key-Value型などのNoSQLが向いている場合があります。RedisやDynamoDBなどを調べてみてください。
- パレートの法則(80:20の法則)を再確認する「売上の8割は2割の商品が生み出す」という法則と、ロングテールがどう違うのか、比較してみると理解が深まります。
データの波に溺れず、その波の「形」を見極められるエンジニアになってくださいね!
それでは、また次回の記事でお会いしましょう。
セイ・コンサルティング・グループの新人エンジニア研修のメニューへのリンク
投稿者プロフィール
- 代表取締役
-
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。
最新の投稿
山崎講師2025年12月15日Spring BootアプリをAWSで公開!世界への扉を開くデプロイ完全ガイド
山崎講師2025年12月15日Android Studio入門!初心者がアプリ開発を始める前に知っておくべき基礎知識
山崎講師2025年12月15日【AIに心は宿るのか?】「統合情報理論」で読み解く意識の数式
山崎講師2025年12月15日【売れない商品が宝の山?】「ロングテール」と「フラクタル」の奇妙な関係