【素朴な疑問】なぜ「偏差平均」と呼ばないの?標準偏差という名前が選ばれた深いワケ

こんにちは。ゆうせいです。

「標準偏差を偏差平均と呼びたい」

なるほど、これは一本取られました。思わず膝を打ちたくなるような、素晴らしいネーミングセンスです。

おっしゃる通り、計算の手順だけを見れば、やっていることは「偏りの大きさを(二乗してルートをとるという特殊な方法ですが)ならしたもの」、つまり平均の一種です。それなら「偏差平均」と言ってしまった方が、何をしているか一発で伝わりますよね。

実は、統計学を学んでいる人の多くが、心の中であなたと同じツッコミを入れています。「標準」なんて偉そうな言葉を使うから難しく感じるんだ、と。

では、なぜ頑なに「標準(スタンダード)」という言葉が使われているのでしょうか。そこには、単なる「平均」という言葉では表しきれない、この数値の「役割」へのこだわりがあるのです。

今回は、名前の裏側に隠された「統計学者たちのこだわり」についてお話しします。

「平均」と呼ぶと誤解を生む恐れがあった

もしこれを「偏差平均」と名付けていたら、どのような誤解が生まれたでしょうか。

「平均」と言われると、私たちはどうしても「全部足して個数で割る」という単純な割り算(算術平均)をイメージしてしまいます。

前回の話とも重なりますが、偏差を単純に平均すると「ゼロ」になってしまいますし、絶対値をとって平均したもの(平均絶対偏差)とも区別がつかなくなってしまいます。

統計学の世界では、計算方法は違っても「中心的な傾向を示す値」はすべて平均の一種とみなされます。だからこそ、あえて「平均」という言葉を使わず、「これはただの平均値とは違う、特別な計算をしたものだよ」ということを強調したかったのかもしれません。

「標準」とは「物差し」のこと

ここからが一番の核心です。「標準」という言葉が選ばれた本当の理由は、この数値がデータの物差し(スケール)になるからです。

少し視点を変えてみましょう。

テストで「平均点プラス10点」を取ったとします。これが「すごいこと」なのか「普通のこと」なのかは、ばらつき具合によって変わりますよね。

みんなが平均点付近に固まっているときは、プラス10点は「ものすごい高得点」です。逆に、0点や100点がたくさんいるバラバラな状況なら、プラス10点は「よくある点数」です。

ここで標準偏差の出番です。

統計学では、標準偏差1つ分の幅を「1単位」として数える習慣があります。

「あなたの点数は、平均点から標準偏差いくつ分、離れていますか?」と考えるのです。

  • 平均から標準偏差1つ分高い \rightarrow まあまあ良い
  • 平均から標準偏差2つ分高い \rightarrow かなり珍しい(上位数%)

このように、標準偏差は、そのデータの世界における「1メモリの幅」として機能します。

ただの「平均した値」ではなく、「この集団を測るためのスタンダードな基準単位」として使ってほしい。そんな願いを込めて、「標準」という冠がつけられたのです。

歴史的な勝者としての「Standard」

少し余談になりますが、この言葉を使い始めたのは、カール・ピアソンという統計学の巨匠だと言われています。

彼が活躍した19世紀末、ばらつきを表す指標は他にもいくつか提案されていました。しかし、先ほどお話ししたように数学的に扱いやすく、最も信頼できる指標として勝ち残ったのが、この二乗してルートをとる方法でした。

「これこそが、統計学における標準(スタンダード)となる指標である」

そんな自負も、もしかしたら名前に込められていたのかもしれません。業界標準、というときの「標準」に近いニュアンスですね。

もし「偏差平均」だったら?

あなたの提案してくれた「偏差平均」という言葉は、計算のプロセス(過程)に注目したとても親切な名前です。初心者が計算方法を覚えるには、こちらの方が断然わかりやすいでしょう。

一方で「標準偏差」という言葉は、その数値が果たす機能(役割)に注目した名前です。「これを基準にしてデータを読み解け」というメッセージが込められています。

  • 偏差平均 \rightarrow どうやって計算した値なの?(How)
  • 標準偏差 \rightarrow 何のために使う値なの?(Why)

このように見比べると、統計学者たちが「機能」の方を重視して名前を付けたことがわかります。

まとめ

名前についての議論、いかがでしたか。

  • 「平均」と呼ぶと、単純な足し算・割り算と混同するリスクがあった
  • データのばらつき具合を測る「物差し(基準)」としての役割を強調したかった
  • その結果、計算方法よりも役割を重視した「標準偏差」という名前が定着した

とはいえ、学習するときには、心の中でこっそり「これは実質、偏差平均のようなものだ」と翻訳して理解するのは、とても賢い方法です。名前の響きに惑わされず、実態を掴んでいる証拠ですからね。

さて、この「物差し」の感覚がわかってくると、次は「偏差値」という日本独特の指標が、実は標準偏差をそのまま使っただけのシンプルな仕組みであることが理解できるはずです。

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。