デジタルスキル標準とは?定義から人材育成への活かし方まで詳しく解説

企業としてDXを推進するためにはDXの素養や専門性を持つデジタルスキル標準に合った人材を育成しなければならないと聞いたけれど、具体的に何から始めればよいのかわからず困っている人はいませんか?

この記事では、デジタルスキル標準の定義からIT業界における人材育成への活かし方まで詳しく解説します。

デジタルスキル標準とは?

デジタルスキル標準におけるスキルと人材のイメージ

デジタルスキル標準とは、DXを推進する上での個人の学習や企業の人材確保・育成の指針のことです。

デジタルスキル標準は次の2種類で構成されています。

項目概要
DXリテラシー標準全てのビジネスパーソンが身につけなければならない能力・スキルを定義している
DX推進スキル標準DXを推進する人材類型の役割や習得しなければならないスキルを定義している

DXリテラシー標準は経営層も含めたビジネスパーソン、DX推進スキル標準はDXを推進する人材向けに制定されているため、デジタルスキル標準はデジタル技術を活用して競争力を高めたいと考える企業で働く人全てを網羅できる指針となっているのです。

DX推進スキル標準の人材類型とは、企業におけるDX推進で必要とされる人材を5つの類型に分類したもので、次のような種類があります。

項目概要
ビジネスアーキテクト・DXの取り組みにおいて、ビジネスや業務の変革において実現したい目的を設定した上で関係者のコーディネート、協働関係の構築のリードなどを行って目標達成へと導く人材
デザイナー・ビジネス、顧客、ユーザーの視点を総合的にとらえて製品やサービスの方針や開発の過程を策定し、それに沿って製品やサービスをデザインする人材
データサイエンティスト・DXの推進において、データを活用した業務変革や新しいビジネスの実現に向けてデータを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を行う人材
ソフトウェアエンジニア・DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を行う人材
サイバーセキュリティ・業務の過程を支えるデジタル環境において、サイバーセキュリティリスクの影響を抑えるための対策を担う人材

どの類型の人も、DXを推進するために他の類型とのつながりを積極的に構築した上で、協働して仕事を進めたり、お互いの仕事をサポートしあったりすることが重要です。

参考:経済産業省「デジタルスキル標準」

デジタルスキル標準とITスキル標準の違い

誰かが身に着けているデジタルスキルとITスキルを指さすイメージ

デジタルスキル標準と混同されやすいのがITスキル標準ですが、この2つはどのような違いがあるのでしょうか。

定義と目的を比較してみましょう。

 定義目的
デジタルスキル標準・DXを推進する上での個人の学習や企業の人材確保・育成の指針・DXを自分事としてとらえ変革に向けて行動できるようになる
ITスキル標準・IT人材に必要とされる能力を職種や専門分野ごとに明確にして、個人のIT関連能力を測定できるように定めた指標・国全体のITサービスにおける質の向上

デジタルスキル標準の場合、IT技術がDXを推進する上で必要なものという捉え方をされますが、ITスキル標準ではITサービスを提供するための技術として位置付けられているのが大きな違いと言えるでしょう。

ITスキル標準についてもっと詳しく知りたい方は、次の記事もごらんください。

ITスキル標準とは?資格一覧からIT企業での活かし方まで詳しく解説 - セイコンサルティンググループ (saycon.co.jp)

デジタルスキル標準の改訂について

デジタルスキル標準の改訂をもたらした生成AIが電球のように光って手のひらの中で生まれた様子

2023年8月に、デジタルスキル標準のうちDXリテラシー標準についての改訂が行われました。

この改訂の背景には、生成AIの急速な普及があります。

生成AIは各企業のDX推進を後押しする力となり、企業の競争力を高める可能性がありますが、普及に合わせてビジネスパーソンに求められるスキルやリテラシーも変化してきました。

そのためDXリテラシー標準を現状に合わせて改訂したのです。

DXリテラシー標準で改訂された部分を、学習項目例の分類であるWhy(DXの背景)、What(DXで活用されるデータ・技術)、How(データ・技術の利活用)、マインド・スタンスの4つにわけてご紹介します。

参考:経済産業省「デジタルスキル標準」

Why(DXの背景)

学習項目例のWhy(DXの背景)には「社会の変化」という項目があります。

この中で、産官学全体で生成AIを利用した取り組みが進んでいるため、社会環境に影響を与える可能性があることを学ぶのです。

社会の変化について学ぶことで、社会課題の解決にデータやデジタル技術の活用が有効だと理解できるでしょう。

What(DXで活用されるデータ・技術)

学習項目例What(DXで活用されるデータ・技術)では、次の3つの項目で生成AIについて学びます。

項目概要
データを扱う・デジタル技術、サービスに活用しやすいデータの入力や整備の方法を理解する
データによって判断する・適切なデータを用いることでデータに基づく判断が有効になるのを理解する
AI・組織や社会でよく使われているAIの動向について理解する

DX推進の手段としてのデータやAIの技術を知り、その発展への背景を理解できるようになるでしょう。

How(データ・技術の利活用)

学習項目例のHow(データ・技術の利活用)では、次の4つの項目で生成AIについて学びます。

項目概要
データ・デジタル技術の活用事例・生成AIの活用事例を学ぶ
ツール利用・日常業務へのツールの活かし方、生成AIの活用方法、自動化・効率化に関するツールの利用方法について理解する
モラル・データ流出の危険性や影響について学ぶ
コンプライアンス・利用規約を踏まえたデータの利用範囲について理解する

ツールの基本的な使い方を理解し、実際に業務で活用できるようになるでしょう。

マインド・スタンス

学習項目例のマインド・スタンスでは次の「生成AI利用において求められるマインド・スタンス」が補記されました。

  • 生成AIをビジネスパーソンのスキルとかけあわせることで生産性向上やビジネス変革に適切に利用しようとしている
  • 生成AIを利用すると望まない結果が出力されたり、著作権侵害、情報漏洩、倫理問題に注意したりしなければならないのを理解している
  • 生成AIの登場や普及による生活やビジネスの変化にアンテナを張りながら変化をいとわず学び続けている

上記の3つは、今後全てのビジネスパーソンが身につけなければならないマインド・スタンスとして重要性が増すでしょう。

デジタルスキル標準を身に着けるための資格

IT関連の資格取得のために学ぶ若い女性

デジタルスキル標準を身に着けるための資格には、どのようなものがあるのでしょうか。

4つご紹介します。

デジタルリテラシー協議会の推奨資格

デジタルリテラシー協議会は、ビジネスパーソンのデジタルリテラシーの整備と社会標準実装を目指して設立された団体です。

デジタルリテラシー協議会では、次の3つの資格取得を推奨しています。

ITパスポート試験

ITパスポート試験は、ITを利活用する社会人や学生が身に着けたいITに関する基礎知識が証明できる国家試験です。

コンピュータを使って受けられるCBT方式の試験を採用しているため通年で受けられ、経営全般、IT管理、IT技術について幅広い知識を身に着けられます。

参考:ITパスポート試験公式ホームページ

G検定

G検定とはディープラーニングを活用したプロジェクトに関わる全ての人を対象とした検定です。

AIとは何かから、AIをめぐる動向、ディープラーニングの手法など、デジタルスキル標準の改訂でも採り上げられたAIについて深く学ぶことができます。

参考:一般社団法人日本ディープラーニング協会「G検定とは」

データサイエンティスト検定

データサイエンティスト検定とはデータサイエンティストを目指すビジネスパーソンや学生向けの検定です。

データサイエンス力・データエンジニアリング力・ビジネス力の3つからバランス良く出題され、実務能力と知識の両方が問われます。

参考:一般社団法人データサイエンティスト協会「データサイエンティスト検定™リテラシーレベル」

参考:デジタルリテラシー協議会公式ホームページ

デジタルスキルパスポート試験

2023年10月、株式会社ギブリーがデジタルスキル標準と国家資格試験に準拠した総合試験として発表したのが「デジタルスキルパスポート試験」です。

DXリテラシー標準に基づいたLV1、DX推進スキル標準に基づいたLV2に分かれ、今後職種別に分かれたLV3も2024年1月にリリース予定なので、今後の発展が楽しみな資格と言えるでしょう。

参考:株式会社ギブリー「Track、デジタルスキル標準と国家資格試験に準拠した総合試験『デジタルスキルパスポート試験』をリリース。」

デジタルスキル標準をIT企業が活用する方法

DXの推進方法を考えるIT企業の従業員

デジタルスキル標準をIT企業はどのように活用すればよいのでしょうか。

3つご紹介します。

組織として同じ方向でDXを推進するためにDXリテラシー標準を活用する

IT企業でDXを推進するためには、最低限の知識と共通認識を全員が持ち同じ方向を目指す必要があります。

そのため全社教育や段階的な人材育成計画などにDXリテラシー標準を活用すると、DXの推進を進めやすくなるでしょう。

DX推進担当の役割を具体化するためにDX推進スキル標準を活用する

IT企業のDX推進担当者が自分の役割や必要なスキルをイメージできていない場合、DX推進スキル標準を活用すると具体的に何をすればよいかがわかります。

例えば製品やサービスのセキュリティを向上させたいけれど、どのようにスキルアップしてそれに取り組めばよいかわからない場合、共通スキルの「セキュリティ」やサイバーセキュリティに必要なスキルが参考にできるというわけです。

人材育成に活用する

デジタルスキル標準では人材類型が最初に定義されているため、自社のDX推進のために欠けている人材はどのような人なのか具体的な人物像がイメージしやすくなります。

また、それぞれの人材類型が身に着けてほしいスキルも記載されているため、そのスキルを身に着けられるような研修を導入すれば、より効率よくDXが進むでしょう。

一方人事評価において、前の項目でご紹介した資格を取得した人が評価されるようにすると、より積極的に学ぶ人を増やすことにもつながります。

デジタルスキル標準はアイデア次第でさまざまに人材育成に活用できるので、担当者はまずしっかりと内容を理解することから始めてみましょう。

デジタルスキル標準に基づいた研修開催をセイ・コンサルティング・グループがサポートします

デジタルスキル標準の改訂で示された生成AIについての研修のノウハウは、まだ持っていない企業も多いため、今後どのように従業員に対して理解を深めてもらえばよいか頭を抱えている人材育成担当者の方もいるでしょう。

しかし、セイ・コンサルティング・グループでは「生成AI活用とプロダクトマネジメント入門」で生成AIの活用方法の研修を行っており、受講生は生成AIの活用方法を自分が理解するだけではなく、他の人にも説明できるようになります。

また「G検定への招待」では、前の項目でご紹介したG検定を受けたいAI初心者の方に合格に向けた勉強方法の解説講座を演習形式で行っています。

従業員にデジタルスキル標準に沿った知識を身に着けてほしい人は、次のページもごらんください。

生成AI活用とプロダクトマネジメント入門 (saycon.co.jp)

7.3 G検定への招待 - セイコンサルティンググループ (saycon.co.jp)

まとめ

デジタルスキル標準とは、DXを推進する上での個人の学習や企業の人材確保・育成の指針のことで、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準の2つに分かれています。

この記事も参考にして、ぜひIT企業における人材育成にデジタルスキル標準を役立ててみてください。