【野球と脳科学】一流バッターがボールを打てるのは「ヘブ則」のおかげ?練習の意味を脳から紐解く
こんにちは。ゆうせいです。
時速160キロの豪速球。ピッチャーの手から離れてキャッチャーミットに収まるまで、その時間はわずか0.4秒ほどだと言われています。まばたきをしている間に通り過ぎてしまうようなボールを、なぜプロ野球選手は正確に打ち返すことができるのでしょうか?
「動体視力が良いから」「筋力があるから」
もちろんそれもあります。でも、もっと根本的な秘密は、実は選手の「脳の中」にあるのです。今日は、練習を重ねることで脳内で何が起きているのか、神経科学の有名な法則である「ヘブ則」を使って一緒に考えてみましょう。
これを読めば、明日からの素振りの意識がガラッと変わるはずですよ!
脳の中にある「道」の話
まず、私たちの脳がどうやって情報を伝えているか想像してみてください。
脳の中には「ニューロン(神経細胞)」と呼ばれる小さな細胞が、なんと1000億個以上も詰まっています。これらは一人ぼっちではなく、お互いに手を繋いで巨大なネットワークを作っているのです。野球のチームプレーのようなものですね。
例えば、「ボールが来た!」という情報が入ってくると、次のようなリレーが始まります。
- 目からの情報を担当するニューロンが興奮する(発火すると言います)
- その信号が次のニューロンへ送られる
- さらに次のニューロンへ……
- 最終的に「バットを振れ!」という命令を担当するニューロンに届く
このニューロンとニューロンのつなぎ目のことを「シナプス」と呼びます。ここが今回の主役です。
使えば使うほど強くなる「ヘブ則」
ここで登場するのが、カナダの心理学者ドナルド・ヘブが提唱した「ヘブ則(ヘブの法則)」です。少し難しい言葉で定義するとこうなります。
「あるニューロンと別のニューロンが同時に繰り返し発火すると、その間のシナプス結合が強まる」
言葉だと少し堅苦しいですよね。もっと直感的に、草むらの「獣道(けものみち)」に例えてみましょう。
誰も通ったことのない草むらを最初に歩くときは、草をかき分けるのが大変で、進むのに時間がかかりますよね。これが、野球初心者の脳内です。「ボールを見る」から「バットを振る」までの道がまだ整備されていないので、反応が遅れてしまいます。
しかし、毎日毎日、同じルートを何度も歩いたらどうなるでしょうか?
草は踏み固められ、地面が見え、やがて立派な道ができあがります。こうなると、何も考えなくてもスムーズに走って通り抜けられますよね。
ヘブ則とは、まさにこれと同じこと。
「ボールを見る」細胞と「振る」細胞を何度も同時に働かせる(=練習する)ことで、その間の電気信号の通り道が太く、通りやすくなる現象のことなのです。
一流バッターの脳内で起きていること
では、このヘブ則を野球のバッティングに当てはめてみましょう。
優れたバッターが豪速球を打てる最大の理由は、この「脳内の高速道路」が完成しているからです。
ピッチャーが投げた瞬間のボールの軌道や回転(入力)を見た瞬間、脳内で太く強化されたシナプスを通って、瞬時に筋肉への命令(出力)が伝わります。
面白いのは、このプロセスにおいて「意識的な思考」をほとんど必要としない点です。
「あ、ボールが来たな。右方向に曲がりそうだから、肘をたたんで……」なんて考えていたら、ボールはとっくに通り過ぎていますよね。ヘブ則によって結合が極限まで強まると、思考のプロセスをショートカットして、体が勝手に反応するレベルに到達します。
これが、いわゆる「体が覚えている」という状態の正体なのです。
ヘブ則を数式でイメージしてみよう
ここで少しだけ、この現象を数式のようなイメージで捉えてみましょう。難しくないので安心してくださいね。脳のつながりの強さがどう変わるかを表しています。
結合の強さの変化 学習率
入力側のニューロンの反応
出力側のニューロンの反応
ここで大事なのは、右側がすべて「掛け算( )」になっていることです。
「入力」と「出力」の両方が高いレベルで同時に起きないと、結合は強くなりません。つまり、ただ漫然とバットを振るだけ(出力だけある状態)や、ボールをぼんやり見ているだけ(入力だけある状態)では、脳の道は太くならないのです。
「実戦を想定して(リアルな入力)、本気で振る(強い出力)」
この掛け算が成立したときだけ、脳の回路は劇的に強化されます。
ヘブ則のメリットとデメリット
この脳の仕組みは素晴らしいものですが、実は良いことばかりではありません。気をつけるべき点も解説しましょう。
メリット:超高速処理が可能になる
最大のメリットは、何と言っても「反応速度」と「省エネ」です。
いちいち脳の司令塔である前頭葉であれこれ考えなくて済むため、脳のエネルギー消費を抑えつつ、コンマ数秒の世界で戦えるようになります。自転車に乗れるようになったら、バランスの取り方を考えなくても乗れますよね? あれもヘブ則のおかげで小脳などの回路が強化された結果です。
デメリット:悪いクセも強化されてしまう
これが怖いところです。ヘブ則は「良い動き」か「悪い動き」かを判断してくれません。
「変なフォームで素振りを千回繰り返した」
「ボール球に手を出す練習を繰り返した」
これらを行っても、脳はその通りに回路を強化してしまいます。間違った獣道が立派な舗装道路になってしまうのです。これを「悪いクセがついた」と言います。
一度強固になったシナプス結合(舗装道路)を元に戻すのは、新しく道を作るよりも大変です。だからこそ、最初から正しいフォーム、正しい選球眼で練習することが何よりも重要なのです。
今後の学習の指針
いかがでしたか?
野球の練習とは、単に筋肉を鍛えているだけでなく、脳の中に「信号の高速道路」を建設する工事だったのですね。
「ニューロンが共に発火すれば、結合は強まる」
この言葉を覚えておいてください。
今後は、さらに理解を深めるために以下のキーワードについて調べてみることをおすすめします。
- シナプス可塑性(かそせい): 脳が変化する性質のことです。
- 長期増強(LTP): ヘブ則の生理学的な基礎となるメカニズムです。
- ミエリン鞘(しょう): 神経の伝達速度をさらに速くする、ケーブルの被膜のような組織です。
脳の仕組みを知ることで、あなたの練習はもっと質の高いものになるはずです。一回一回のスイングを大切に、脳に理想の道を刻み込んでいきましょう!
それでは、またお会いしましょう。ゆうせいでした。
あなたの脳を育てるためのネクストアクション
今日の練習から、ただ回数をこなすのではなく「ピッチャーが投げたボールの軌道」を鮮明にイメージしながら素振りをしてみてください。脳内の「入力」と「出力」を同時に発火させ、最強の回路を作り上げましょう!
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