なぜ、あの機能追加は「蛇足」と言われたのか? 限界効用逓減の法則と開発の「お腹いっぱい」

こんにちは。ゆうせいです。

突然ですが、あなたが一生懸命に追加した新機能が、ユーザーから「うーん、別になくても…」という反応だった経験はありませんか? または、リファクタリングを頑張れば頑張るほど、コードの改善実感が薄れていくような感覚に陥ったことは?

もし「ある!」と思ったなら、あなたは知らず知らずのうちに「限界効用逓減(げんかいこうようていげん)の法則」という、経済学の重要な壁にぶつかっているのかもしれません。

「げ、経済学? エンジニアに必要?」と思いますよね。

でも、この法則を知っているかどうかで、あなたの開発における「努力の配分」や「機能の優先順位付け」の質が、ガラッと変わる可能性があるのです。

今日はこの、ちょっと難しい名前の法則を、一緒に噛み砕いていきましょう!

限界効用逓減の法則とは?

まず、この長ったらしい名前を分解してみましょう。

  • 効用(こうよう):これは「満足度」や「うれしさ」だと思ってください。
  • 限界(げんかい):これは「追加で1つ(単位)増やしたとき」という意味です。物理的な限界点(リミット)とは少し違いますね。
  • 逓減(ていげん):これは「だんだん減っていく」という意味です。

つまり、「限界効用逓減の法則」とは、「追加で1つ得たときの満足度(うれしさ)は、だんだん減っていきますよ」という法則なんです。

例え話:真夏のラーメン

一番わかりやすい例えでいきましょう。

あなたが真夏に汗だくで、お腹をペコペコに空かせてラーメン屋に入ったと想像してください。

  • 最初の一口(スープ):「うまいっ! 生き返る!」この時の「効用(満足度)」は、めちゃくちゃ高いですよね。まさに至福の瞬間です。
  • 麺を半分食べたあたり:「うん、美味しい。チャーシューもいい感じだ」まだまだ美味しいですが、最初の一口ほどの感動は薄れています。
  • 最後の一口:「ふぅ…お腹いっぱいだ…」美味しいけれど、もう「満足度の上昇」はほとんどありません。むしろ、ちょっと苦しいかもしれません。

もし、店長が「サービスだよ!」と、同じラーメンをもう一杯持ってきても、「ありがとう!…でも、もう入りません!」となりませんか?

これが限界効用逓減です。

同じ「ラーメン一杯」でも、最初の一杯と二杯目では、あなたにもたらす「追加の満足度(限界効用)」がまったく違うのです。

エンジニアの仕事と限界効用

さて、この「ラーメンの法則」を、私たちエンジニアの仕事に当てはめてみましょう。

驚くほど、多くの場面でこの法則が働いていることに気づくはずです。

ケース1:機能追加とユーザー満足度

あなたは、とあるSNSアプリを開発しています。

ユーザーから「写真にフィルターをかけたい」という要望がたくさん来ました。

  • 最初のフィルター機能(5種類)を実装:ユーザーは大喜び! 「この機能待ってた!」「神アプデ!」と高評価の嵐。あなたの「効用」も爆上がりです。
  • さらに5種類(計10種類)を追加:「お、増えたね。便利便利」と、まずまずの反応。
  • さらに10種類(計20種類)を追加:「また増えたんだ。でも、だいたい使うのは最初のやつなんだよね…」
  • さらに30種類(計50種類)を追加:「多すぎて選べない!」「アプリが重くなった!」…どうでしょう。満足度(効用)は上がるどころか、むしろ「逓減」し、ついにはマイナス(不満)に転じてしまいました。

最初の「0→1」の満足度は絶大ですが、機能が充実するにつれて、「追加の1機能」が生み出す満足度はどんどん減っていきます。

ケース2:リファクタリングとコード品質

あなたは、先輩から引き継いだ「秘伝のタレ」のようなコードをリファクタリングしています。

  • 最初のリファクタリング(ひどい重複コードの解消):「うわ、めっちゃスッキリした!」「テストも書きやすくなった!」コードの見通しが劇的に改善し、満足度は最高潮です。
  • 次のリファクタリング(命名規則の統一):「うん、読みやすくなった。いい感じだ」改善を実感できます。
  • さらなるリファクタリング(デザインパターンへの準拠):「たしかに理論上は美しいけど…ちょっと複雑になったかも?」満足度の伸びが鈍化し始めます。
  • 完璧を目指すリファクタリング(細かすぎる最適化):「もう、どこを直しても大して変わらない…」かけた時間(コスト)に対して、得られる品質向上(効用)がほとんど感じられなくなりました。

これも限界効用逓減です。「もうお腹いっぱい」の状態なのに、さらに「改善」という名のラーメンを注ぎ込もうとしているわけです。

法則を知るメリットとデメリット(罠)

この法則を知っておくことには、大きなメリットがあります。

メリット:賢明な「やめ時」がわかる

私たちはエンジニアとして、「もっと良くしたい」「完璧にしたい」という情熱を持っています。それは素晴らしいことです!

しかし、その情熱が「効用(満足度)」を生まない努力に向かってしまうと、それは「自己満足」や「リソースの無駄遣い」になってしまう危険があります。

限界効用逓減の法則は、「お、そろそろ満足度の伸びが鈍くなってきたな」と気づくサインになります。

それは、「もうこの機能は十分だ。次は別の、もっと満足度を上げられる(=ユーザーが空腹を感じている)課題に取り組もう!」という、賢明な判断を下す助けになるのです。

デメリット(罠):「0点」を恐れなくなる

一方で、この法則は「最初の一口が一番うまい」という事実も示しています。

新人エンジニアのうちは、まだ「0(ゼロ)」の分野がたくさんあるはずです。

例えば、新しいプログラミング言語、インフラの知識、テストの手法…。

これらを学び始めたときの「最初の一口(基礎の習得)」は、あなたに最も大きな「効用(スキルの伸び)」をもたらします。

すでに知っている技術を「80点→90点」にする努力も大切ですが、それには膨大な時間がかかる(効用が逓減している)かもしれません。

それよりも、まだ「0点」の分野を「30点」にする方が、短時間で大きな成長(効当)を得られる場合があります。

限界効用逓減の法則を知っていると、「もうこの技術は深掘りしてもコスパ悪いな」と早々に見切りをつけ、新しい「最初の一口」を探しに行くフットワークの軽さにも繋がります。

今後の学習指針:あなたの「お腹の空き具合」は?

限界効用逓減の法則は、リソース(時間、労力、お金)をどこに配分すべきかを考えるための強力なツールです。

ぜひ、あなたの仕事や学習に当てはめてみてください。

  1. 今、あなたが一番「お腹が空いている」分野はどこですか?(例:テストコードの書き方が全然わからない! → 最初の一口の効用が高い!)
  2. 今、あなたが「もうお腹いっぱい」なのに食べ続けようとしていることはありませんか?(例:その機能、もう誰も使わないのに完璧にしようとしていないか?)
  3. ユーザーが「お腹を空かせている」のに、提供できていない「ラーメン」はありませんか?(例:ここの操作、すごく面倒くさい! → 改善の効用が高い!)

この法則を意識するだけで、あなたの努力が「本当に価値を生む場所」へと向かい始めるはずです。

経済学、なかなか面白いでしょ?

あなたのエンジニアライフが、より「効用高く」なることを願っています!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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