学習済みモデルの中身、覗いてみる?AIの頭脳に"データ"は入っていないってホント?
こんにちは。ゆうせいです。
最近、画像生成AIや翻訳AIなど、高性能な「学習済みモデル」をダウンロードしてきて、手軽に使える機会が増えましたよね。
新人エンジニアの皆さんも、業務や趣味で触れることがあるかもしれません。
ここで一つ、あなたに質問です!
その学習済みモデルのファイル(例えば model.h5 や pytorch_model.bin といった名前のファイル)の中には、一体何が入っていると思いますか?
「そりゃあ、学習に使った大量の画像やテキストデータが、圧縮されて詰まっているんでしょ?」
もしそう思ったなら、今日の話はきっとあなたにとって大きな発見になりますよ!
実は、その考えは半分正解で、半分は大きな誤解なんです。
この記事を読み終える頃には、学習済みモデルの本当の中身が何なのか、スッキリと理解できるようになるはずです!
結論:モデルに「元のデータ」は入っていない!
いきなり結論から言いますね。
学習済みモデルの中に、学習に使った画像、文章、音声といった「元データそのもの」は、一切入っていません!
「え、じゃあ一体何が入ってるの?データなしでどうやって予測するの?」と不思議に思いますよね。
ここで、とても分かりやすい例え話をしてみましょう。
例え話:数学のテスト勉強を想像してみよう
あなたは今、数学のテストを控えて猛勉強しているとします。
- 学習データ:分厚い問題集(たくさんの問題と、その解答が載っています)
- 学習(トレーニング):問題集をひたすら解いて、解き方のパターンを体に叩き込むこと
- 学習済みモデル:テスト本番に持ち込むあなたの「脳みそ」
さて、テスト本番の日。あなたは試験会場に、勉強で使ったあの分厚い問題集を持ち込むでしょうか?
持ち込みませんよね!持ち込んでいいのは、自分の脳みそうだけです。
そのあなたの脳みそには、問題集の問題と答えが"一字一句"すべて記憶されているわけではないはずです。
代わりに、「二次関数が出てきたら、まず平方完成を試す」「このパターンの図形問題は、補助線をここに引くと上手くいく」といった、たくさんの問題演習を通して得られた「解き方のコツ」や「ルール」「公式の使い方」が、知識として蓄えられています。
機械学習の学習済みモデルも、これと全く同じです。
モデルの中に入っているのは、大量のデータから学んだ「問題解決のためのコツやパターン」であり、データそのものではないのです。
モデルの中身の正体は「パラメータ」
では、その「コツやパターン」とは、コンピュータの世界ではどのような形で表現されているのでしょうか。
その正体こそが、「パラメータ(Parameter)」と呼ばれる、膨大な数の数値の集まりです。
ほとんどの機械学習モデル、特にニューラルネットワークのような複雑なモデルでは、このパラメータは主に2種類あります。
- 重み (Weight)
- バイアス (Bias)
なんだか難しそうに聞こえますが、役割はシンプルです。
例えば、「画像に写っているのが犬か猫か」を判定するモデルを考えてみましょう。
入力された画像の、どの部分(ピクセル)を重要視するかを決めるのが「重み」の役割です。「耳がとがっている」「ヒゲが長い」といった特徴を持つピクセルには大きな重みをつけ、「背景の壁紙」のような関係ない部分のピクセルには小さな重みをつけます。
そして、「バイアス」は、全体の判定のしやすさを微調整する、いわば「ゲタ」のような役割を果たします。
学習(トレーニング)とは、この式から正しい予測結果が出力されるように、何百万、何千万という「重み」と「バイアス」の数値を、コンピュータが自動で微調整していく作業なのです。
そして、その調整が完了した瞬間の、天文学的な数の「重み」と「バイアス」の組み合わせこそが、「学習済みモデル」のファイルに保存されているものの正体です。
中身が「パラメータ」だと何が嬉しいの?
元データではなく、パラメータを持っていることには、たくさんのメリットがあります。
メリット
- 軽量で持ち運びやすい学習データは、時には数テラバイトにも及ぶ巨大なものになります。もしモデルがこれを内包していたら、配布したり、スマホアプリに組み込んだりするのは不可能でしょう。パラメータだけなら、数メガバイトから数ギガバイト程度に収まるため、非常にポータブルです。
- プライバシーを守れるモデルの中に元のデータが含まれていないため、学習データに個人の顔写真やプライベートな文章が含まれていたとしても、モデルの利用者には見られません。これはサービスを提供する上で非常に重要です。
- 予測が超高速新しいデータを予測(推論)するとき、モデルは保存されたパラメータを使って、先ほどの数式のような計算(行列演算)を実行するだけです。大量の元データと一つ一つ照らし合わせるような非効率なことはしないので、一瞬で答えが出ます。
デメリット
もちろん、いいことばかりではありません。
- 中身がブラックボックスになりがち
何億個もの数値の羅列であるパラメータを人間が見ても、なぜモデルがその予測をしたのか、理由を直感的に理解することはほぼ不可能です。これをAIの「ブラックボックス問題」と呼びます。 - 「何を忘れたか」が分からない
あなたの脳みそが、問題集のすべての問題を覚えていないのと同じで、モデルも学習データのすべてを完璧に記憶しているわけではありません。データの中のどのパターンを学習し、どのパターンを学習しきれなかった(忘れた)のかを、後から知るのは困難です。
次の一歩へ!学習の指針
「学習済みモデルの中身はパラメータなんだ!」ということが分かったあなたへ。
この理解をさらに深めるための、次の学習ステップを提案します。
- 線形回帰を学んでみよう機械学習の中で最もシンプルなアルゴリズムの一つです。モデルが持つパラメータはごく少数で、「重み」と「バイアス」が予測にどう影響するのかを、数式レベルで完全に理解することができます。まずはここから始めるのが王道です!
- 簡単なモデルを自分で作ってみようTensorFlowやPyTorchといったフレームワークを使って、本当に簡単な画像分類モデルなどを自分で構築してみましょう。モデルの構造を定義し、学習後に保存されたファイルのサイズを見たり、モデルの層(レイヤー)ごとのパラメータ数を確認したりすると、より具体的なイメージが湧いてきます。
- XAI(説明可能なAI)に触れてみようブラックボックス問題を解決し、AIの判断根拠を理解しようとする技術分野が「XAI (Explainable AI)」です。LIMEやSHAPといったライブラリを使えば、モデルが予測の際に画像のどの部分に注目したかを可視化できます。モデルの「気持ち」を少しだけ覗き見ることができて、とても面白いですよ。
学習済みモデルは、決して魔法の箱ではありません。
データから法則性を見つけ出し、それを「パラメータ」という数値の形で凝縮した、いわば「知識の結晶」です。
その正体を知ることで、あなたはAIをより深く理解し、より上手に使いこなせるエンジニアになれるはずです。
頑張ってください!