論理記号の起源をたどる:∀ や ∃ はどこから来たのか?
こんにちは。ゆうせいです。
今回は、論理記号(quantifiers and logical operators)を取り上げます。
私たちが数学や論理学で目にする「∀(全称)」「∃(存在)」「∴(ゆえに)」「⇒(ならば)」などの記号は、形式的な命題を正確に表現するための重要な道具です。しかし、これらの記号がいつ、誰によって、なぜ導入されたのかを知っている人は意外と少ないかもしれません。
今回は、それぞれの記号が登場した文献・時代・人物に基づいて、事実のみに絞って由来を明らかにしていきます。
全称記号「∀」
- 意味:「すべての x に対して…」
書き方:∀x;P(x) - 名称:全称記号(universal quantifier)
使用の起源
- 導入者:ゲルハルト・ゲンツェン(Gerhard Gentzen)
- 初出:1935年『Untersuchungen über das logische Schließen(論理的推論に関する研究)』
- 由来:英語・ドイツ語の “All” の頭文字「A」を上下反転させた記号。
背景
ゲンツェンは、それ以前に使われていた「(x)P(x)」という記法が括弧と混同されやすいという理由から、「∀」の記号を導入しました。
なお、「(x)」記法はラッセルとホワイトヘッドによる『Principia Mathematica(1910–1913年)』で使われていたもので、「omnis(すべて)」の頭文字 O の変形とされています。
存在記号「∃」
- 意味:「ある x が存在して…」
書き方:∃x;P(x) - 名称:存在記号(existential quantifier)
使用の起源
- 導入者:ゲルハルト・ゲンツェン(同上)
- 初出:同じく1935年の論文
- 由来:英語の “exist” またはドイツ語の “existieren” の頭文字「E」を上下反転させたもの。
背景
『Principia Mathematica』では、存在を「E(x)」と記していました。ゲンツェンはこの E が他でも使われている(例:期待値)ことを理由に、新しい形として「∃」を採用しました。
ゆえに「∴」/なぜならば「∵」
意味と使用法
- ∴:therefore(ゆえに)
- ∵:because(なぜならば)
使用の起源
- 初出:1659年
- 人物:ヨハン・ハインリッヒ・ラーン(Johann Heinrich Rahn)
- 著書:『Teutsche Algebra』
歴史的経緯
- 当初は、どちらも「ゆえに」の意味で使われていた。
- 英語訳版(1668年)では、「∵」が主に使用された。
- 18世紀までは両方が同義で使用されていたが、19世紀以降、英国と米国において「∵=because」の意味で定着。
使用例
A ⇒ B, B ⇒ C ∴ A ⇒ C
論理積「∧」と論理和「∨」
意味と定義
- ∧(and):A かつ B のとき真(論理積)
- ∨(or):A または B のとき真(論理和)
使用の起源
記号 | 導入者 | 初出 | 由来 |
---|---|---|---|
∨ | バートランド・ラッセル | 1900年代初頭 | ラテン語 vel の頭文字 V |
∧ | アレン・ハイティング | 1930年『Die formalen Regeln…』 | 反転した V(視覚的対比) |
含意「⇒」と単矢印「→」
- 意味:「A ⇒ B」は「A が真ならば B も真」を意味する。
使用の起源
記号 | 導入者 | 初出 |
---|---|---|
→ | デイヴィッド・ヒルベルト | 1922年 |
⇒ | ニコラ・ブルバキ | 1954年 |
「→」は初期の形式論理で導入され、ブルバキが後に「⇒」を採用することで二重矢印の記法が定着しました。
否定「¬」とその前史
- ¬A:「A は偽である(not A)」
使用の起源
記号 | 導入者 | 初出 |
---|---|---|
~ | ジュゼッペ・ペアノ | 1897年 |
¬ | アレン・ハイティング | 1930年 |
初期は「~(チルダ)」が否定を意味し、のちに「¬」が採用されました。
同値「⇔」「≡」「iff」
- A ⇔ B:「A と B が同値である」
- iff:if and only if の略
使用の起源
記号 | 導入者 | 初出 |
---|---|---|
⇔ | ブルバキ | 1954年 |
≡ | 記録は不明確 | 19世紀末には使用されていたと推定 |
「iff」は書き言葉で使用される省略表現であり、正式な記号としては「⇔」や「≡」が用いられます。
一意的存在「∃!」
- 意味:「ただひとつの x が存在して P(x) を満たす」
例:
∃!x;P(x)
- 名称:一意存在記号(uniqueness quantifier)
- 初出:正確な導入年は不明。20世紀後半には標準記法として確立。
エプシロン・デルタ論法での使用例
論理記号は微積分でも登場します。たとえば、関数 f(x) が点 a で連続であるとは次のように定義されます: ∀ε>0, ∃δ>0 ; ∣x−a∣<δ⇒∣f(x)−f(a)∣<ε\forall \varepsilon > 0,\ \exists \delta > 0\ ;\ |x - a| < \delta \Rightarrow |f(x) - f(a)| < \varepsilon
まとめ:論理記号の発展史
記号 | 名称 | 初使用者・時期 |
---|---|---|
∀ | 全称記号 | ゲンツェン(1935年) |
∃ | 存在記号 | ゲンツェン(1935年) |
∴ | ゆえに | ラーン(1659年) |
∵ | なぜならば | 19世紀の英米 |
∧ | 論理積 | ハイティング(1930年) |
∨ | 論理和 | ラッセル(1900年頃) |
→ | 単矢の含意 | ヒルベルト(1922年) |
⇒ | 二重矢の含意 | ブルバキ(1954年) |
¬ | 否定 | ハイティング(1930年) |
~ | 否定(旧式) | ペアノ(1897年) |
⇔ | 同値 | ブルバキ(1954年) |
∃! | 一意的存在 | 初出不明(20世紀後半に定着) |
参考文献
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投稿者プロフィール

- 代表取締役
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セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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