IT企業がエンジニアの心理的安全性を高めるには?メリットや方法を解説
近年、生産性が高い組織やチームの特徴の1つとして「心理的安全性」が取り上げられ、IT企業でも心理的安全性を高める取り組みが導入されています。
しかし
・言葉は知っているけれど、具体的にはどのようなものかわからない
・居心地がいいだけのぬるま湯組織とは何が違うのか
という疑問を持っている人もいるでしょう。
また
・エンジニアの働き方は時代の変化に伴いますます多様化が進んでいるため、どのようにチームをつくっていけばよいか迷っている
という人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は心理的安全性についての概念や注目された背景を紹介します。IT企業が心理的安全性の高いチームづくりに取り組むメリットや高め方について具体的に解説していきますので、ぜひ最後までお読みください。
心理的安全性とは?概念や注目された背景
そもそも心理的安全性とは何か、なぜ注目を浴びるようになったのか、具体的に見てみましょう。
心理的安全性とは
心理的安全性とは、一言でいえば「組織やチームで他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる心理状態」のこと。組織行動学の研究者であるエイミー・C・エドモンドソンが提唱した概念です。
誰もが意見や質問、提案を率直に発言できる職場は、心理的安全性が高い組織であると言えます。心理的安全性が高い職場は居心地がよいだけではなく、職務上の不安や失敗についても気兼ねなく相談や報告ができるため、問題を未然に防いで改善したり、活発なコミュニケ―ションによって革新的な成果につなげたりする可能性が拓けます。
心理的安全性が注目されるようになった背景
チームづくりにおける心理的安全性の効果は、2012年にGoogleが発表した企業向けリサーチである「プロジェクト・アリストテレス」によって、多くの企業の注目を集めました。 プロジェクトの目的は、より生産性の高いチームの条件を調査によって解明し、定義することにありました。
数百にも及ぶチームを調査した結果、心理的安全性の高いチームでは「離職率が低い」「収益性の高い仕事ができる」「他者のアイデアを活用しあえる」「評価される機会が増える」といった特徴があることを見出しました。心理的安全性は、Googleがまとめた生産性を向上する5つの柱の1つに位置付けています。
心理的安全性の低下につながる4つの不安
チームメンバーが次のような不安を抱えていると、気兼ねなく発言や提案をすることが難しくなり、職場全体の心理的安全性の低下、ひいては仕事効率や生産性の低下を招いてしまいます。
特に働き方が多様なエンジニアは、メンバーが固定した組織で働く人以上に不安が強くなる傾向があるため、対策を考えるためにポイントを押さえておくことが大切です。
1)無知だと思われる不安
「こんなことも知らないのかと思われそう」という不安があると、仕事を進めるうえで必要な質問や確認であってもしづらくなります。
2)無能だと思われる不安
「仕事ができないと思われそう」という不安がある職場では、自分の弱みや失敗を認められなかったり、ミスをしても隠したりする傾向が高くなります。
3)邪魔をしていると思われる不安
自分が発言する際に「話の邪魔をしていると思われないか」という不安があると、発言や提案を控えるようになってしまいます。
4)ネガティブだと思われる不安
「他の人の意見を批判していると否定的に捉えられそう」という不安があると、現状の改善につながる意見であったとしても発言を控えるようになってしまいます。
IT企業がエンジニアの心理的安全性を高める4つのメリット
エンジニアの仕事は、従来型の固定的なチームとは違い、常に異なるメンバーと新たな目標に向けて働かなければならないという特徴があります。IT企業がエンジニアの心理的安全性を高めることは、企業にとっても次のようなメリットをもたらします。
1.エンジニアのパフォーマンスが高まる
心理的安全性が高まると他者の反応に怯えたり、ストレスを感じたりすることがなくなるため、業務に集中しやすくなります。心身がリラックスした状態で集中すると、作業に没入し充足感を得られるフローな状態に入りやすくなるため、パフォーマンスも高まります。
また、目標や方法についてもしっかり議論し、納得したうえで動くので、チーム全体の作業効率やパフォーマンスも高められます。
2.生産性が上がる
心理的安全性が低い組織では、失敗の報告が遅れることで問題がより深刻化し、予定外の対応にも時間や労力をつぎこむことになりがちです。
心理的安全性が高い職場では、無知・無能と責められる怖れがないため、エンジニアが職務上の不安を感じても早い段階で相談し、ミスがあっても報告できるようになります。
メンバーから不安要素の相談や報告が迅速に上がってくることは、IT企業やDX推進企業のリーダーやマネージャーにとっても大きなメリットです。ダブルチェックをかけてミスを未然に防いだり、失敗の理由を一緒に分析することでより改善策につなげたりできるからです。長期的な視野でみると、作業効率や生産性の向上にもつながります。
3.創造的な問題解決やイノベーションが生まれやすくなる
専門的な技術や経験を持つエンジニアはさまざまな改善案やアイデアを持っていますが、心理的安全性の低いチームの中では発揮することができません。
気兼ねなく発言できる職場には、お互いのアイデアを活かしあえるというメリットがあります。柔軟な新人のアイデアを経験豊富なエンジニアが実現につなげてくれるといったことも起こりえるのです。
リーダーが率先して多様なアイデアを促すことで、現状の改善はもちろん、イノベーションを生み出しやすくなります。
4.エンゲージメントが高まる
心理的安全性の高い組織では、相互に協力しあいながら個人の能力やアイデアを活かせるため、エンジニアのエンゲージメントが高まります。組織やチームへの愛着も湧くため、離職が減り、多様な人材が定着するようになります。
IT企業がエンジニアの心理的安全性を高めるには?
優秀なエンジニアをチームに迎え入れ、力を発揮してもらうためには、能力を高めることと同じくらい、チームの心理的安全性を高めることが重要です。エンジニアの心理的安全性を高める具体的な方法について解説します。
1.心理的安全性についての共通基盤をつくる
多様な人材が出入りする職場やチームにおいては、誰もが安心して建設的に発言したり動いたりできるよう、共通基盤をつくることから始めましょう。ここでは心理的安全性に関わる共通基盤づくりのポイントを2点紹介します。
1-1.目標の明確化と共有
目標を明確にして共有しておくことは、チームで協力して成果を出すために不可欠な要素です。
心理的安全性がまだ確立されていない状態では、不安が勝って質問や確認ができないメンバーがいるかもしれません。わかりやすく提示された目標は、仕事が軌道から逸れたり迷ったりしたときに立ち戻れる道しるべとしても機能します。
メンバー1人ひとりに「質の高い製品やサービスをユーザーに届ける」という目標がしっかり浸透していれば、職場の人間関係に左右されずに、今やるべきことを選択できるようになるでしょう。
1-2.失敗についての認識を再構築する
心理的安全性を高めるためには「失敗は恥ずかしいものだ」という捉え方を組織的に構築しなおす必要があります。
組織行動学の調査では、心理的安全性の高い組織のリーダー自らが「失敗は歓迎すべきもの」という信念を持って対応していることが明らかになっています。
実際のところ、失敗には生産性を向上させるための貴重なデータが詰まっています。しかし、失敗に対する不安や挫折感を克服しなければ、失敗から学習できる組織に成長できません。
失敗から学習する組織づくりには、レジリエンスを育てる試みが有効です。レジリエンスとは「弾力性」や「回復力」を意味し、失敗や挫折を経験しても素早く立ち直る力のことです。
レジリエンスの研修についてはこちらをご参照ください。
https://saycon.co.jp/whatwedo-2/hr/resilience
2.コミュニケ―ションを促す環境づくり
技術力が高く経験豊富なエンジニアをチームに迎えても、発言の機会がなければ彼らの持つアイデアを活用できません。エンジニアが「お客さん」ではなく「メンバー」として関われるようにするために、コミュニケ―ションを促す環境を整えましょう。仕組みづくりとルールづくりに分けてアイデアを紹介します。
2-1.コミュニケ―ションを活性化する場や仕組みをつくる
1)リーダーとメンバー間の心理的安全性を高める
近年多くの企業が導入している1 on 1ミーティングは、リーダーがチームメンバーと一対一で対話する方式をとり、傾聴によって心理的安全性を高める効果があります。
リーダーはもちろん、企業全体で学びたい傾聴トレーニングはこちらをご参照ください。
https://saycon.co.jp/whatwedo-2/hr/mental
2)メンバーの相互コミュニケーションを促す
職場の風通しをよくするために、メンバー同士が気軽に雑談できるようなレイアウトを工夫してみましょう。
ミーティングでは、誰もが発言しやすいよう場の設定を工夫したり、グループワークを取り入れたりしてみるのも効果的です。通常のミーティングのほかに、率直な改善案を出し合う意見交換フォーラムや、さまざまなアイデアを出し合うワールドカフェを取り入れるのもおすすめです。
いつものミーティングを活性化して成果につなぐ、ファシリテーション技術を学ぶ研修はこちらをご参照ください
https://saycon.co.jp/whatwedo-2/pm/facilitation
2-2 .ソーシャルスキルをチームや組織のルールづくりに活かす
多様性がますます重視される社会状況や職場環境において、ソーシャルスキルを磨くことはエンジニアのウェルビーイングを高めるうえでますます重要になるでしょう。
ソーシャルスキル系のトレーニングは、意見の多様性を受け止め、活かしあえる組織づくりに効果があります。傾聴は関心をもって相手の意見を受け止め、相互依存の基盤をつくるコミュニケ―ション技法です。
感情を扱いストレス軽減にもつながる「アンガーマネジメント」や、建設的な自己主張の技術である「アサーション」を学ぶと、意見や価値観の違いがあっても、互いに配慮しあいながら本心を伝えることができるようになります。学んだポイントはチーム会議のルールとして活用すると、年齢や立場の違いを超えた対等な話し合いの場づくりに有効です。
アンガーマネジメント研修についてはこちらをご参照ください。
https://saycon.co.jp/whatwedo-2/hr/anger1
チームの人間関係において明らかな違反行為があった場合はうやむやにせず、迅速かつ厳格な対応をすることは、心理的安全性を確保するうえでも必要なことです。企業や組織の倫理を明確にして共有しておくことは、ハラスメントを未然に防ぐ効果があります。
ハラスメントについての知識と予防や対応のポイントを学ぶ研修はこちらをご参照ください。
https://saycon.co.jp/whatwedo-2/hr/anger2
まとめ:
心理的安全性の高い組織とは、恥をかいたり罰せられたりする不安を感じることなく、目標に向かって安心して質問や提案して相互に高め合える組織のことです。
従来型のチームはもちろん、新規に編成されたチームで働く機会の多いエンジニアにとって、自分の能力を発揮しながらチームとして成果をあげるために、心理的安全性の確保は欠かせない要素です。
心理的安全性を高めるためにIT企業やDX推進者にできることはたくさんあります。中でも
・心理的安全性についての共通基盤づくり
・コミュニケ―ションを促す環境づくり
は重要であるため、具体的な方法や具体的な研修アイデアも紹介しました。
記事を参考に、ぜひ取り組んでみてください。