あなたのコードは「自由」を実装しているか? 橘玲『テクノ・リバタリアニズム』入門
こんにちは。ゆうせいです。
新人エンジニアの皆さん、日々の学習や業務で「Web3」や「DeFi(分散型金融)」、「DAO(自律分散型組織)」といった言葉に触れる機会が爆発的に増えていませんか?
そして、それらの技術コンセプトを学ぶとき、決まって「非中央集権(Decentralized)」や「ブロックチェーン」、「暗号化」といったキーワードが出てきますよね。
「なぜ、こんなにも『中央』を嫌い、『分散』させたがるんだろう?」
「なんだか、ただの技術トレンドというより、強い『思想』を感じる…」
そんな風に感じたことがあるなら、あなたの感覚はとても鋭いです!
その「思想」の正体を知るための、最高の一冊があります。
それが、作家・橘玲(たちばな あきら)さんの著書『テクノ・リバタリアニズム』です。
今日は、この本が解き明かす「エンジニアが世界を変える」とはどういうことなのか、その核心部分を、新人エンジニアの皆さんに向けて解説していきます。
そもそも「リバタリアニズム」って何?
まず、この長いカタカナ語の前半部分、「リバタリアニズム」から片付けましょう。
これは英語の「Liberty(リバティ=自由)」から来ています。
一言でいえば、「個人の自由を、とにかく最大限に尊重しよう! そのために、政府や国家など、大きな力による介入は最小限にしよう!」という考え方です。
例え話:学校の「校則」
想像してみてください。
ある学校に、ものすごく厳しい校則があったとします。
「髪の長さは耳たぶまで」「靴下は白のみ」「登下校中は買い食い禁止」「部活動は全員強制参加」…
リバタリアニズムの考え方に立つ人は、こういうルールに「ノー!」と言います。
「髪の色や長さ、部活に入るかどうかは、他人に迷惑をかけない限り、個人の自由で決めるべきだ。学校(=国家)が介入しすぎるな!」と主張するわけです。
彼らが許容するルールは、本当に最低限のもの。
例えば「他人の物を盗まない」「暴力をふるわない」といった、個人の自由や安全を守るための「審判」としての役割だけを、国家に求めます。
- キーワード: 自由至上主義、自己責任、小さな政府
経済活動も同じで、「自由に商売させてくれ」「税金は(警察や国防など)最低限にしてくれ」と考えます。
「自分の人生は、自分で決める。その代わり、失敗しても自分で責任を取る」
これがリバタリアニズムの基本です。
そこに「テクノ」がつくとどうなる?
では、本題の「テクノ・リバタリアニズム」です。
これは、先ほどの「リバタリアニズム(自由を!)」を、「テクノロジーの力で実現しようぜ!」という思想です。
国家や大きな組織のルール(校則)が嫌なら、どうしますか?
昔なら、デモをするか、我慢するかしかなかったかもしれません。
しかし現代には、テクノロジーがあります。
橘玲さんが注目するのは、特にインターネット、暗号技術、そしてAIなどです。
エンジニアに関わる「テクノ」の例
- 暗号資産(ビットコインなど)日本円や米ドルは、誰が管理していますか?国(日本政府)や中央銀行(日本銀行)ですよね。テクノ・リバタリアンは考えます。「なぜ、自分のお金を国家にコントロールされなきゃいけないんだ?」そこで生まれたのが、コード(数学)によって管理され、どの国家にも属さない「ビットコイン」です。これはまさに、テクノロジーによる国家(中央銀行)からの「自由」の試みです。
- グローバリゼーションとリモートワークあなたが超優秀なエンジニアになったとします。もし「日本の税金が高すぎる!」と感じたら、どうしますか?テクノロジー(インターネット、PC)さえあれば、タックスヘイブン(税金が安い国)に移住して、世界中のクライアントの仕事をリモートで受注できます。国家は「待て、税金を払え!」と言いたいでしょうが、テクノロジーが個人に「逃げる(Exit)」という選択肢を与えました。
つまり、テクノ・リバタリアニズムとは、テクノロジーを武器として、国家や巨大企業の「支配」から個人が「逃げ出す」思想だと言えます。
あなたが今学んでいる「分散化」技術は、まさにこの思想のど真ん中にあるのです。
メリットとデメリット(エンジニアの視点)
この思想が広まると、エンジニアであるあなたに、どんな影響があるでしょうか?
メリット:実力主義と「出口」の獲得
最大のメリットは、「実力さえあれば、どこまでも自由になれる」ことです。
国籍、年齢、学歴といった「古い縛り」は関係なくなります。あなたのスキル(コード)だけが価値を持つ世界です。
また、会社や国という組織に「忠誠」を誓う必要がありません。
「このプロジェクトは嫌だ」「この国のルールはおかしい」と思えば、テクノロジーを使って別の場所(別のコミュニティ、別の国)へ、ひょいと移ることが可能になります。
デメリット:過酷な自己責任と「格差」
もちろん、いいことばかりではありません。
橘玲さんの本が示唆するのは、その「冷徹な(残酷な)」側面です。
自由であるということは、「誰も助けてくれない」ことの裏返しです。
リバタリアニズムの世界では、「自己責任」が絶対です。スキルがなければ仕事はなく、失敗してもセーフティネット(社会保障など)は最小限です。
そして何より、「テクノロジーを使いこなせる者」と「そうでない者」の格差が、とてつもなく開く可能性を秘めています。
エンジニアである皆さんは「使いこなせる者」の側ですが、そうでない人々が取り残されていく社会を、私たちは受け入れられるのでしょうか?
今後の学習指針:あなたのコードが社会を選ぶ
『テクノ・リバタリアニズム』が問いかけているのは、「あなたが作るそのシステムは、社会をどう変えるのか?」という、エンジニアにとっての根源的な問いです。
- 思想の「座標軸」を持とうあなたが今、開発で関わっている技術(例えばDeFi)が、社会全体の中で「国家から自由になりたい」という、一つの強い思想に基づいていることを知ってください。なぜGAFAのような中央集権型プラットフォームが批判され、Web3が注目されるのか。その背景にある「思想の対立」が見えてくるはずです。
- 「出口」の先を想像してみよう国家や会社から「逃げた」先にあるのは、どんな社会でしょうか?コードが法律(スマートコントラクト)になり、コミュニティ(DAO)が会社になる世界は、本当に自由で公平でしょうか?技術の可能性だけでなく、それがもたらす「リスク」や「社会的な影響」についても、ぜひ考えを巡らせてみてください。
- 反対側の思想も知ろうリバタリアニズムは、数ある思想の一つにすぎません。「いや、自由よりも『平等』や『安定』が大事だ」「国家がしっかり介入して、弱い人を助けるべきだ」という考え方(社会民主主義など)も、もちろん力強く存在します。
テクノロジーは「中立」ではありません。
それは常に、何らかの思想を実現するための「道具」です。
あなたの書く一行一行のコードが、良くも悪くも、未来の社会の形を決定づけていく。
橘玲さんの本は、そのスリリングな現実を、私たちエンジニアに突きつけてくれるのです。
ぜひ、自分の作る技術の「向こう側」にある思想に、思いを馳せてみてください!なることを願っています!
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投稿者プロフィール
- 代表取締役
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セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。
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