インフレで通貨は強くなる?弱くなる?「悪い円安」の正体
こんにちは。ゆうせいです。
受講者の方から以下の質問をいただきました。
インフレが進みすぎると通貨安になるのでは?
その質問、めちゃくちゃ鋭いですね!
前回の記事を読んで、「あれ、ちょっと待てよ?」と思ったあなたの勘は、エンジニアとして非常に筋が良いです。
私は前回、「アメリカはインフレになったから金利を上げて、その結果ドルが高くなった(ドル高)」と説明しました。
しかし、あなたは直感的にこう思ったはずです。「インフレって、お金の価値が下がることだよね?だったら、インフレがひどい国の通貨は、ゴミあつかいされて安くなる(通貨安になる)のが普通じゃないの?」と。
正解です。実は、インフレには「通貨を強くする力」と「通貨を弱くする力」の2つが同時に働いているのです。
この綱引きのバランスが崩れたとき、国を揺るがす本当の危機が訪れます。今回は、このパラドックス(逆説)について、エンジニアらしくロジカルに解説していきましょう。
2つの力の「綱引き」を理解する
インフレが起きたとき、その国の通貨に対してプラスとマイナスの2つのベクトルが働きます。
1. 通貨を「高く」する力(金利への期待)
これは前回お話ししたメカニズムです。「インフレだ!大変だ!」となると、中央銀行が火消しのために「金利(利息)」を上げます。
投資家たちは「あの国の通貨を持っていれば、高い利息がもらえるぞ」と考えて買うため、通貨は高くなります。
2. 通貨を「安く」する力(購買力の低下)
一方で、ご指摘の通り、インフレはお金の価値そのものを目減りさせます。
去年100円で買えたリンゴが200円になったら、100円玉の価値は半分ですよね。「そんな価値の下がっていく通貨なんて持ちたくないよ」とみんなが売れば、通貨は安くなります。
つまり、通貨の運命は、この2つの力のどちらが強いかで決まるのです。
分かれ目は「実質金利」がプラスかマイナスか
ここで、この勝負の判定基準となる重要な計算式を紹介します。これを「実質金利」と呼びます。
この式の結果が「プラス」か「マイナス」かが、運命の分かれ道です。
ケースA:通貨が高くなるパターン(今のアメリカ)
例えば、インフレ率が3%で、銀行の金利を5%に上げたとします。
この場合、物価が上がってお金の価値が減るスピードよりも、利息で増えるスピードの方が速いですよね。
「持っているだけで資産が実質2%増える」ことになるので、世界中の人がその通貨を欲しがり、通貨高になります。
ケースB:通貨が暴落するパターン(「進みすぎた」インフレ)
では、ご質問の「インフレが進みすぎた」場合です。
例えば、インフレ率が100%(物価が2倍)という猛烈な勢いなのに、経済がボロボロで金利を20%までしか上げられない国があったとします(トルコやアルゼンチンなどで見られるケースです)。
これだと、いくら高い金利をもらっても、それ以上に物価が上がってお金の価値が紙屑のように消えていきます。
「持っていると損をする」通貨なんて誰も欲しくありません。みんなが我先にとその通貨を売り払い、外貨やゴールド(金)に逃げるため、通貨は止まることなく暴落します。
これこそが、あなたが懸念した「インフレが進みすぎると通貨安になる」という現象の正体です。これを専門用語で「キャピタルフライト(資本逃避)」と呼びます。
日本が恐れている「悪い円安」
さて、これを日本に当てはめてみましょう。ここが一番怖いところです。
日本でインフレが進んできたとき、日銀がアメリカのようにガツンと金利を上げられれば、円安は止まるかもしれません。
しかし、前回の記事でお話しした通り、日本には「借金が多すぎて、金利を上げると財政が破綻しかねない」という弱点があります。
もし、日本のインフレ率が3%、4%と上がっていくのに、日銀が「金利は0%のままにします(上げられません)」と言い続けたらどうなるでしょうか。
実質金利はマイナスになります。「円を持っているだけで、毎年4%ずつ損をしていく」状態です。こうなると、日本人も外国人も「円を捨ててドルを持とう」と動き出し、制御不能な通貨安(悪い円安)に突入するリスクがあるのです。
今後の学習の指針
質問者さんの直感は、経済の核心を突いていました。
「金利を上げれば通貨高」というのは、あくまで「インフレ以上に金利を上げられる体力がある国」だけの話なのです。
このリスクを踏まえて、これからの指針をお伝えします。
- 「実質金利」を計算する癖をつけるニュースで「消費者物価指数(インフレ率)」と「長期金利」を見たら、頭の中で引き算をしてください。マイナス幅が大きくなっているときは、円安が進むサインです。
- 「日本売り」のニュースに注目する海外の投資家が日本国債や日本株をどう動かしているか。もし「金利が低いから」ではなく「日本の信用がないから」という理由で売られ始めたら、それは危険信号です。
- スキルという「最強の通貨」を持つ通貨の価値がどうなろうと、どこでも通用する技術力(プログラミング、設計能力、英語力)があれば、あなたは外貨(ドルなど)で給料をもらう仕事に就くことができます。
経済の変動に一喜一憂するのではなく、どんな状況でも生き抜けるよう、自分自身の価値(人的資本)を高めていくことが、最強のインフレ対策です。
これからもその鋭い視点で、世の中の仕組みをハックしていきましょう!
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投稿者プロフィール
- 代表取締役
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セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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