【見積もりの極意】「だいたい」を数字で語る!エンジニアのための信頼区間入門

こんにちは。ゆうせいです。

エンジニアの皆さん、上司やクライアントからこんな質問をされたことはありませんか?

「この機能の実装、いつ終わる?」

「このテスト結果、本当に正しいと言い切れる?」

これに対して「絶対に明日終わります!」「100%正しいです!」と答えるのは、実はあまり誠実ではありません。なぜなら、私たちの世界には常に「誤差」や「不確実性」が潜んでいるからです。

今日は、そんな不確実な未来やデータを、正直かつ科学的に伝えるための「信頼の数式」をご紹介します。

1. 統計的な正しさを計算する「信頼の数式」

今回解読するのは、統計学の教科書には必ず出てくるこの数式です。

h \cdot n \pm 1.96 \cdot \sigma \cdot \sqrt{n}

なんだか記号のオンパレードですね。でも、この式の意味がわかると、自分の発言に「根拠のある自信」を持てるようになりますよ。

2. 数式を解読しよう

この数式は、あるデータや見積もりの合計が 「95%の確率でこの範囲に収まるよ」 というライン(信頼区間)を計算するためのものです。

例えば、「1つの作業にかかる平均時間( h )」と「作業の個数( n )」から、プロジェクト全体にかかる時間を予測する場面を想像してください。

  • h平均値 です。1つの作業にかかる標準的な時間(例:5時間)です。
  • nサンプル数(試行回数) です。作業の数(例:100個)です。
  • \pm (プラスマイナス): ここが重要!「ここからここまで」という を表します。
  • 1.96 : これは 「95%の信頼係数」 と呼ばれる魔法の数字です。「およそ95%の確率は保証しますよ」というときに使います。
  • \sigma (シグマ): 標準偏差 です。データの「バラつき具合」を表します。作業ごとにどれくらい時間のブレがあるか(例:±1時間くらいブレる)という指標です。
  • \sqrt{n} (ルートエヌ): 回数の平方根です。

式が教えてくれること

この式の前半 h \cdot n は、「平均 \times 個数」なので、単純な予想合計時間(5時間 \times 100個 = 500時間)です。ここまでは小学生の算数です。

重要なのは後半の 1.96 \cdot \sigma \cdot \sqrt{n} です。これが 「想定される誤差の範囲」 です。

もし、あなたが「500時間で終わります」と言い切ってしまうと、少しでも遅れたら「嘘つき」になります。

しかし、この数式を使えば、「95%の確率で、500時間からプラスマイナス〇〇時間の範囲に収まります」と、リスクを含めて正確に伝えることができるのです。

3. エンジニアが知っておくべき専門用語

この数式を使いこなすためのキーワードを解説します。

標準偏差(Standard Deviation)

記号は \sigma (シグマ)。データの「暴れん坊具合」だと思ってください。

いつもきっちり5時間で終わるなら \sigma は0に近いです。でも、3時間で終わったり10時間かかったりするなら、 \sigma は大きくなります。

自分の作業の「ムラ」を知ることが、正確な見積もりの第一歩です。

信頼区間(Confidence Interval)

「真の値は、高い確率でこの範囲内にあるはずだ」という区間のことです。

ニュースの世論調査で「支持率40%(※誤差±2%)」といった表記を見たことがありませんか? あれがまさに信頼区間です。「ピンポイントで当てるのは無理だけど、この範囲なら嘘にはならない」という、誠実な範囲指定です。

正規分布(Normal Distribution)

多くのデータが集まると、釣鐘(ベル)のような形に分布するという法則です。

この数式の「1.96」という数字は、この正規分布の形から来ています。中心から左右に「1.96倍の標準偏差」分離れた範囲に、全体の95%のデータが含まれることが数学的にわかっているのです。

4. この考え方を使うメリットとデメリット

メリット

「リスク管理ができるエンジニアになれる」 ことです。

単に「500時間です」と言うのではなく、「ブレ幅( \sigma )を考慮すると、最悪これくらいかかります」と伝えることができます。

また、式の最後が \sqrt{n} になっていることに注目してください。単なる n ではありません。これは「作業数が増えても、誤差は単純な足し算ほどには増えない(プラスの誤差とマイナスの誤差が打ち消し合う)」ことを示しています。この感覚があると、大規模プロジェクトでも過度に恐れず、冷静な見積もりができるようになります。

デメリット

「『で、結局いつ終わるの?』と言われがち」 です。

幅を持たせた回答は、決断を急ぐビジネスサイドの人からは「曖昧だ」と嫌われることがあります。

「500時間 ± 50時間です」と伝えた上で、「安全を見て550時間と見ておいてください」と、相手が判断しやすい形に翻訳してあげる優しさも必要です。

5. 今後の学習の指針

これからは、何かを数字で報告するときに「平均値」だけで語るのをやめてみましょう。

「平均はこれくらいですが、バラつき( \sigma )が大きいので、これくらいの幅を見ておいた方が安全です」

そう言えるようになれば、あなたはもう「言われた通りに作るだけの人」ではなく、「プロジェクトの成功をコントロールできるエンジニア」です。

次回は、少し趣向を変えて、スポーツやスキルの上達に関わる「④スキルの数式」について解説します。

「昨日はできたのに、今日はできない!」というスランプの正体がわかりますよ。お楽しみに!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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