訪問前に勝負が決まる ── IT営業のリサーチシートと仮説を3つに絞る方法

こんにちは。ゆうせいです。

IT営業向け連載の第5回です。前回は、信頼を作る3つの柱と、5W2Hで課題を整理する順番をお伝えしました。今回は、訪問前の準備がテーマです。お客様を調べて仮説を作るための道具であるリサーチシートと、仮説を3つに絞る方法を解説します。

読者の疑問:仮説はどう作るのか、何を調べればよいのか

第1回で、仮説提案型営業は「御社の課題は〇〇ではありませんか」と問いかけるところから始まるとお伝えしました。すると、次のような疑問が出てきます。

  • 仮説を作れと言われても、何を調べればよいのか分からない
  • 調べる時間がない
  • 調べた情報が多すぎて、どれを使えばよいか分からない

この3つの疑問は、調べる項目と情報源を決めておき、1枚のシートに整理すれば解決します。

結論:5つのカテゴリを1枚に整理し、仮説を3つに絞る

先に結論をお伝えします。

訪問前に調べるのは、業界、企業、人物、決裁ルート、競合の5つのカテゴリです。それぞれについて調べる項目と情報源を決めておき、1枚のリサーチシートに書き込みます。

調べた結果から、お客様が抱えていそうな課題を3つに絞ります。3つに絞る理由は、商談の時間が限られていることと、多すぎる仮説は「調べてきたことを話す場」になってしまうからです。

用語の説明:リサーチシートの5つのカテゴリ

リサーチシートは、訪問前の調査結果を1枚にまとめた表です。5つのカテゴリごとに、調べる項目、情報源、仮説への効き方を整理します。

カテゴリ調べる項目情報源の例仮説への効き方
業界市場規模、成長率、規制の動向、業界共通の課題省庁の白書、業界団体の資料、業界紙課題の方向性が分かる
企業決算、中期経営計画、IR情報、子会社や関連会社の動き有価証券報告書、統合報告書、プレスリリース、採用情報優先テーマが分かる
人物(KMP)役職、経歴、関心領域、過去の発言会社のWebサイト、SNS、寄稿記事、講演話し方の調整ができる
決裁ルート起案者、承認者、予算規模、意思決定の時期既存の取引先からの情報、過去の案件、ヒアリング攻略の順序が決まる
競合既存ベンダー、他社の提案状況、強みと弱み公開されている導入事例、業界内の評判差別化の軸が決まる

KMPとは、キーマン(Key Man)やキーパーソンのことで、商談の行方を左右する人物を指します。決裁者とは限らず、現場で影響力を持つ担当者がKMPである場合もあります。

具体例:中小規模の同業他社を調べる

第2回のSWOT分析で、「更新期を迎える中小規模の同業他社」を訪問先と決めた中堅SIerの営業が、ある会社を調べる場面を例にします。

業界

業界団体の資料から、業界全体で設備の老朽化対策と人手不足が共通の課題になっていることが分かりました。規制の見直しも予定されており、記録の電子化が求められています。

企業

採用情報を見ると、現場担当者の募集が続いています。プレスリリースでは、隣接地域の同業他社との業務提携が発表されていました。

人物

情報システムの責任者は、前職が製造業の生産管理部門で、業界紙への寄稿で「現場の負担を減らす仕組み作り」について書いていました。

決裁ルート

既存の取引先から聞いた話では、投資案件は年に1回の予算会議で決まり、起案は情報システム部門、承認は社長とのことでした。

競合

公開されている導入事例から、全国規模のシステム会社が同業他社に標準パッケージを導入していることが分かりました。業界内では「標準的だが、個別の業務には合わせにくい」という評判でした。

絞り込んだ3つの仮説

  1. 人手不足が続いており、現場の記録業務を減らしたいのではないか(業界と企業の情報から)
  2. 規制の見直しに伴う記録の電子化を、提携先と共通の仕組みで進めたいのではないか(業界と企業の情報から)
  3. 標準パッケージでは自社の業務に合わない部分があり、個別対応できる相手を探しているのではないか(競合の情報から)

この3つを持って訪問すれば、「御社の課題は〇〇ではありませんか」という問いかけが3回できます。

練習問題1

次の情報は、リサーチシートのどのカテゴリに書くべきでしょうか。

  1. お客様の情報システム部長が、業界のセミナーでクラウド移行について講演していた
  2. お客様の業界で、来年から電子記録の保存が義務化される
  3. お客様の既存システムは、全国規模のシステム会社の標準パッケージである
  4. お客様の投資案件は、毎年10月の予算会議で決まる

解答と解説

1は人物(KMP)です。部長の関心領域が分かり、話し方の調整に使えます。

2は業界です。業界全体の規制の動向であり、課題の方向性を示します。

3は競合です。既存ベンダーの情報であり、差別化の軸を決める材料になります。

4は決裁ルートです。意思決定の時期が分かり、提案を持っていくタイミングが決まります。

仮説を3つに絞る方法

調べた情報は、そのままでは仮説になりません。情報を仮説に変えるには、次の3つの問いを使います。

  1. この情報から、お客様の社内で増えていそうな仕事は何か
  2. その仕事は、誰の負担になっているか
  3. その負担が続くと、お客様にとって何が困るか

たとえば「現場担当者の募集が続いている」という情報からは、「人が足りないので、1人あたりの記録業務が増えている(増えている仕事)」「現場の担当者と、その管理者の負担になっている(誰の負担か)」「記録の漏れやミスが増え、規制対応で問題になる(何が困るか)」という流れで仮説ができます。

3つに絞るときは、次の基準で選びます。

  • お客様にとって困る度合いが大きいもの
  • 自社の強みで解決できるもの
  • 決裁者の関心に近いもの

3つの基準をすべて満たす仮説を優先します。

練習問題2

次の情報から、仮説を1つ作ってください。

情報:お客様の会社は、隣接地域の同業他社と業務提携を発表した。両社は別々のシステムを使っている。

解答例

  • 増えていそうな仕事:提携先との情報のやり取りで、両社のシステムから手作業でデータを取り出して突き合わせる作業
  • 誰の負担か:両社の事務担当者と情報システム部門
  • 何が困るか:提携の効果が出る前に、事務作業の増加で現場が疲弊する

仮説:提携先とのデータ連携が手作業になっており、共通の仕組みを探しているのではないか。

実務での使い方:リサーチシートを30分で埋める

訪問前の調査に使える時間は限られています。次の配分で、30分を目安にしてください。

  1. 業界(5分):業界団体のWebサイトで、最新の課題と規制の動きを確認する
  2. 企業(10分):お客様のWebサイトでプレスリリースと採用情報を確認する。上場企業なら決算説明資料も見る
  3. 人物(5分):KMPの名前で検索し、講演や寄稿がないか確認する
  4. 決裁ルート(5分):過去の案件記録や、既存の取引先からの情報を確認する
  5. 競合(5分):既存ベンダーの導入事例を確認し、評判を調べる

30分で埋まらない欄は、空欄のままで構いません。空欄は、商談で聞くべき項目になります。

注意点:リサーチでやりがちな失敗

  • 調べた情報をすべて商談で話してしまう
  • 仮説が10個もあり、どれを問いかけるか決められない
  • 調べた内容を「事実」として断定し、お客様に確かめない
  • 一度作ったリサーチシートを更新しない

調べた情報は、商談で話すためのものではなく、問いかけを作るためのものです。「御社の採用情報を拝見しました」で十分で、採用情報の内容を詳しく話す必要はありません。

まとめ

  • 訪問前に調べるのは、業界、企業、人物、決裁ルート、競合の5つ
  • 調べた情報は、「増えている仕事」「誰の負担か」「何が困るか」の3つの問いで仮説に変える
  • 仮説は、困る度合い、自社の強み、決裁者の関心の3基準で3つに絞る
  • 調査は30分を目安にし、空欄は商談で聞く項目にする
  • 調べた情報は話すためではなく、問いかけを作るために使う

仮説をお客様に確かめ、課題が整理できたら、次は提案の中身を語る段階です。次回は、提案の価値を「解決策」「利点」「満足」の3段階で語るSASフレームワークを解説します。

投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
海外放浪の末、2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。

学生時代は趣味と実益を兼ねてリゾートバイトにいそしむ。長野県白馬村に始まり、志賀高原でのスキーインストラクター、沖縄石垣島、北海道トマム。高じてオーストラリアのゴールドコーストでツアーガイドなど。現在は野菜作りにはまっている。