【働かざる者も食っていいのに?】あえて苦労を選ぶ心理「コントラフリーローディング」の謎

こんにちは。ゆうせいです。

みなさんは、「何もしなくても毎月100万円もらえるボタン」と、「毎日一生懸命働いて月30万円もらう仕事」、どちらを選びますか?

「そんなのボタンに決まってるじゃん!」

そう即答したくなるのが普通ですよね。私もそうです。できることなら楽をしたい。それは生物としての本能のように思えます。

でも、もし私が「動物たちは、あえて苦労してエサを手に入れることを好む」と言ったら、信じられますか?

今日は、そんな直感に反する不思議な心理現象、コントラフリーローディングについてお話しします。

これを知ると、なぜ私たちが「苦労して作った料理」をおいしく感じるのか、その理由が見えてくるかもしれません。

ただ飯よりも、働いて食べる飯がうまい?

コントラフリーローディング(Contrafreeloading)とは、一言でいうと「無償で手に入る報酬よりも、何らかの労力を払って手に入れる報酬の方を好む」という現象のことです。

「フリーローディング」は「ただ乗り(無賃乗車)」という意味ですが、「コントラ(逆)」がついているので、「ただ乗り拒否」といったニュアンスですね。

ネズミたちの不思議な選択

この現象は、1960年代に動物心理学者のグレン・ジェンセンが行った実験で発見されました。

実験の内容はこうです。

  1. お腹を空かせたネズミを箱に入れます。
  2. 箱の中には、ただ置いてあるエサがあります。自由に食べてOKです。
  3. もう一つ、レバーを押すと出てくるエサもあります。

合理的に考えれば、わざわざレバーを押すなんて面倒なことはせず、置いてあるエサを食べるはずですよね?エネルギーの無駄遣いですから。

ところが、結果は驚くべきものでした。

なんと多くのネズミが、皿のエサを無視して、わざわざ一生懸命レバーを押してエサを食べ始めたのです。

「自分で獲得した!」という感覚が、動物にとっても快感なのかもしれません。ちなみに、この現象は犬、鳥、猿、さらには魚でも確認されています。(面白いことに、猫だけはこの傾向を示さず、迷わずただ飯を選ぶことが多いそうです。さすが猫ですね!)

人間界における「あえての苦労」

この心理は、私たち人間にも強く当てはまります。

1. IKEA効果

家具量販店のIKEAで買った組み立て式の家具。「説明書がわかりにくい!」と文句を言いながら何時間もかけて組み立てた棚には、既製品の高級家具以上の愛着が湧いたりしませんか?

苦労して完成させたものに高い価値を感じるこの心理は、IKEA効果とも呼ばれ、コントラフリーローディングの一種と考えられています。

2. ゲームのレベル上げ

もし、最初からレベル99で、どんな敵も一撃で倒せるRPGがあったらどうでしょう?最初は爽快かもしれませんが、すぐに飽きてしまいますよね。

雑魚敵を倒して、経験値を稼いで、やっとの思いでボスを倒す。その「労力」があるからこそ、クリアしたときの喜び(報酬)が何倍にもなるのです。

数式で見る「満足感」の矛盾

ここで、少し数学的な視点を取り入れて、この現象の奇妙さを整理してみましょう。

伝統的な経済学では、私たちの満足度(効用)は次のように考えられてきました。

満足度 = 報酬 - 労力

労力は「コスト」なので、マイナス要因です。つまり、労力が少ないほど(ゼロに近いほど)、満足度は高くなるはずです。

しかし、コントラフリーローディングの世界では、この式が成り立ちません。むしろ、ある程度の労力がプラスに働いています。これを式で表すと、次のようになります。

満足度 = 報酬 + 達成感係数 \times 労力

ここでいう「達成感係数」がポイントです。

自分でやった、情報を探索した、環境をコントロールできた。そういった感覚が、本来はマイナスであるはずの「労力」を、価値あるものへと変換しているのです。

もちろん、労力が大きすぎると(ブラック企業での過重労働のように)、再びマイナスに転じてしまいますが、適度な苦労はスパイスになるというわけです。

コントラフリーローディングのメリットとデメリット

この心理を知っておくことには、良い面も悪い面もあります。

メリット:成長とモチベーション

  • スキルが身につく答えをすぐに検索せずに、自分で考えて解いた数学の問題は忘れませんよね。苦労の過程で学習が強化されます。
  • 幸福感が高まる「自分でできた」という自己効力感(自信)が育ち、精神的な満足を得やすくなります。

デメリット:効率の悪化とサンクコスト

  • 無駄な作業に固執する「苦労したから価値があるはずだ」と思い込み、非効率なやり方を続けてしまう恐れがあります。自動化ツールがあるのに、手作業でデータを入力して「仕事をした気」になってしまうのは危険です。
  • サンクコスト(埋没費用)の罠「これだけ時間をかけたんだから、今さら引けない」と、失敗しそうなプロジェクトや人間関係に固執してしまう原因にもなります。

まとめと今後の学習指針

いかがでしたか?

「楽をして得をしたい」と思う一方で、私たちは本能的に「苦労して手に入れたもの」を求めてしまう生き物なのです。

もし、今の仕事や勉強がつまらないと感じているなら、それは「簡単すぎる」からかもしれません。あえて少しハードルを上げて、コントラフリーローディングの効果を狙ってみるのも一つの手です。

最後に、これからさらに学びたい方への指針です。

この分野に興味が湧いた方は、ぜひ「行動経済学(こうどうけいざいがく)」や「学習心理学(がくしゅうしんりがく)」について調べてみてください。

特に「内発的動機づけ」というキーワードを深掘りすると、やる気の正体がもっと詳しく見えてくるはずです。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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