組織が壊れる境界線?エンジニアが知るべき「150の法則」と脳の限界

こんにちは。ゆうせいです。

エンジニアとして会社に入ると、最初は数人のチームで開発を始めますよね。そのときは、誰が何をしているか、阿吽の呼吸でわかります。

でも、会社が成長して社員が増えていくと、ある日突然、「あれ?誰が何を担当しているのかわからない」「情報の伝達が遅い」といった問題が起き始めます。

不思議なことに、その混乱が始まるタイミングは、多くの組織で共通しています。

それが、構成員が「150人」を超えたときなのです。

なぜ、私たちは無限に友達を増やしたり、巨大な組織をスムーズに動かしたりすることができないのでしょうか?

その答えは、私たちの「脳のサイズ」に隠されています。

ダンバー数とは何か?

一言で言うと、 「人間が安定して維持できる人間関係の限界数」 です。

これは、イギリスの人類学者ロビン・ダンバー博士が提唱したもので、「ひとりの人間が、お互いの顔と名前、そして性格や関係性をきちんと把握できる人数は、だいたい150人くらいまでだ」という説です。

SNSのフォロワーが1000人いても、本当の意味で「友達」と呼べるのは、実はこのくらいの人数に限られると言われています。

なぜ150人なの?

みなさんは、クラス替えの最初の頃を覚えていますか? 30人くらいのクラスなら、すぐに全員の名前を覚えられますよね。でも、全校集会で何百人も集まると、もう誰が誰だかわかりません。

人間関係を維持するには、脳のエネルギーを大量に使います。「AさんはBさんが好きで、Cさんとは仲が悪い」といった複雑な情報を処理しなければならないからです。

この処理能力の限界が、平均して150人前後なのです。

どうやって発見されたの?

では、この数字はどのようにして発見されたのでしょうか? そのきっかけは「サルの毛づくろい」でした。

1990年代、ダンバー博士は霊長類(サルやチンパンジーなど)の群れのサイズと、脳の大きさの関係を調べていました。

サルたちは「毛づくろい」をすることで仲間との絆を深めます。群れが大きくなればなるほど、たくさんの仲間と毛づくろいをする必要がありますが、それには時間がかかりますし、誰と誰が仲良しかを覚えるための脳の容量も必要になります。

博士は、あることに気づきました。

「大脳新皮質(脳の思考を司る部分)が大きい種類ほど、大きな群れを作っている!」

博士はこの関係性を数式にしました。

ここで、少し数式を見てみましょう。

\log(N) = 0.093 \times (大脳新皮質比率) + 3.389

ここで N は群れのサイズです。

この数式に、私たち「人間」の大脳新皮質のサイズを当てはめて計算してみると……。

なんと、弾き出された数字が「147.8」、つまり約150人だったのです。

こうして、昔の村落の人口や、軍隊の中隊のサイズ、年賀状をやり取りする人数などを調べてみると、驚くほどこの「150」という数字に収まっていることがわかりました。これがダンバー数の発見です。

メリットとデメリット

この「150の壁」を知っておくことには、エンジニアや組織作りにおいて大きな意味があります。

メリット(150人以下の場合)

  • コミュニケーションが速い全員が顔見知りなので、マニュアルや厳格なルールがなくても、「あ、これやっとくね」で仕事が進みます。
  • 帰属意識が高まる「自分たちのチーム」という意識が強く、協力しやすくなります。スタートアップ企業が爆発的なスピードで開発できるのは、この規模だからです。

デメリット(150人を超えた場合)

  • 官僚的になる顔と名前が一致しなくなるため、管理するための「ルール」や「階層」が必要になります。これにより、自由な発想やスピードが失われがちです。
  • 派閥ができる全体を把握できなくなるため、150人以下の小さなグループ(派閥)に分裂し始め、セクショナリズム(縄張り意識)が生まれます。

エンジニアとしてどう活かす?

新人エンジニアの皆さんが、もし将来マネージャーになったり、システムを設計したりする立場になったら、この数字を思い出してください。

例えば、AmazonやSpotifyといったテック企業では、開発チームをあえて少人数に分割しています。「ピザ2枚を分け合える人数(2ピザルール)」なんて言葉もありますが、これも脳の限界を超えないための工夫の一つです。

システム設計でも「マイクロサービス」といって、巨大なシステムを小さなサービスの集合体にすることがあります。これも、1つのチームが管理できる認知の限界(ダンバー数)を超えないようにする知恵と言えるかもしれません。

今後の学習の指針

今日は、脳の限界と組織のサイズに関する「ダンバー数」について解説しました。

(音の似ている振動の「ダンパー」と間違えやすいので、ぜひ「人間関係はダンバー」と覚えてくださいね!)

興味を持った方は、ぜひ以下のステップで学習を進めてみてください。

  1. 「コンウェイの法則」 について調べる。システムのデザインは、その組織の構造に似てしまうという、エンジニアにとって非常に重要な法則です。
  2. 「認知負荷(Cognitive Load)」 について学ぶ。脳が一度に扱える情報の限界を知ることは、良いコードを書くためにも役立ちます。
  3. 自分のSNSや連絡先を見て、本当に連絡を取り合っている人が何人いるか数えてみる。

150という数字は、ただの限界ではありません。私たちが心地よく過ごせる「適正サイズ」を教えてくれる羅針盤なのです。

それでは、また次の記事でお会いしましょう。

あなたのチームが良い関係でありますように。

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
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