Python以外のAI開発の選択肢は?
【AI開発】Pythonだけじゃない?爆速言語「Rust」が注目される理由を初心者向けに解説
こんにちは。ゆうせいです。
最近、ニュースやSNSで「AI」という言葉を見かけない日はありませんね。みなさんもChatGPTなどの生成AIを使ったことはありますか?
AI開発のプログラミング言語といえば「Python(パイソン)」が王様です。しかし、実は今、その裏側で「Rust(ラスト)」という言語が熱い視線を浴びているのをご存知でしょうか。
なぜ、すでにPythonという便利な道具があるのに、わざわざ新しい言語を学ぶ必要があるのか。不思議に思いますよね。
今回は、AI開発の新たな選択肢として注目されるRustについて、その理由や魅力を一緒に見ていきましょう!
AI開発におけるRustの立ち位置
まず、Rustとはどんな言語なのか、イメージを掴んでみましょう。
Pythonが「親切で気が利くコンシェルジュ」だとすれば、Rustは「厳格だけど凄腕のF1マシンのエンジニア」です。
Pythonは、難しいことを自動でやってくれるので、人間にとって書きやすく読みやすい言語です。しかし、その分、処理速度が少し遅いという弱点があります。一方、Rustは「安全性」と「速度」にとことんこだわって作られました。
なぜAIにスピードが必要なのか
AI、特にディープラーニング(深層学習)と呼ばれる技術は、膨大な量の計算を必要とします。
例えば、AIに猫の画像を覚えさせるためには、数万枚、数億枚という画像を読み込み、複雑な計算を繰り返さなければなりません。この計算があまりに遅いと、AIが賢くなるまでに何ヶ月もかかってしまいます。
そこでRustの出番です。Rustは、C++(シープラスプラス)という昔からある高速な言語と同じくらい速く動くことができるのです。
専門用語で読み解くRustのすごさ
ここで、Rustを語る上で欠かせない専門用語を2つ紹介します。高校生の皆さんにも伝わるよう、学校生活に例えて解説しますね。
1. 静的型付け(せいてきかたつけ)
プログラミングでは、データ(数字や文字)を箱に入れて扱います。この箱の種類を「型(かた)」と呼びます。
Pythonは、箱に何を入れても文句を言いません。「とりあえず入れておいて!」というスタイルです。これを動的型付けと呼びます。楽ですが、後で「数字を入れるはずの箱に文字が入っていた!」というエラーが起きることがあります。
対してRustは、静的型付けを採用しています。これは、プログラムを実行する前に「この箱には整数しか入れません」「あの箱には文字列しか入れません」と厳密に決めるルールです。
例えるなら、文化祭の準備で「ダンボールにはガムテープ、ビニール袋にはゴミ」と事前にラベルを貼って管理するようなものです。最初は面倒に感じるかもしれませんが、片付け(実行時)のトラブルが圧倒的に減ります。
2. 所有権(しょゆうけん)とメモリ安全性
これがRust最大の特徴です。
コンピュータのメモリ(作業机の広さ)は有限です。使い終わったメモリはすぐに片付けないと、机がいっぱいになってパソコンが固まってしまいます。
Pythonなどの言語は「ガベージコレクション」という機能を持っていて、清掃員さんが定期的に机の上を片付けてくれます。便利ですが、清掃員さんが動いている間は作業が少し止まってしまいます。
Rustは違います。「所有権」という独自のルールがあり、データ(道具)を使う人が厳密に決められています。「Aさんが使い終わったら、必ずAさんがすぐに片付ける」というルールが徹底されているのです。
これにより、清掃員さん(ガベージコレクション)を待つ必要がなくなり、常に最高速度で作業を続けられます。これを「メモリ安全性が高い」と言います。
RustでAI開発をするメリット
では、具体的にRustを使うとどんな良いことがあるのでしょうか。
実行速度が圧倒的に速い
先ほど説明した通り、Rustは余計な処理を挟まないため、計算速度が非常に高速です。AIの推論(学習したAIを使って答えを出すこと)を行うシステムなどで、この速さが大きな武器になります。
ユーザーがAIに質問して、答えが返ってくるまでの待ち時間が短縮されれば、使い心地は格段に良くなりますよね。
バグが起きにくい
Rustには「コンパイラ」という、翻訳機兼先生のような機能があります。この先生は非常に厳しく、少しでも危ない書き方をすると、プログラムを動かす前に「ここでエラーが起きる可能性があります!」と指摘してくれます。
実際に動かしてから「アプリが落ちた!」と慌てることが減るため、信頼性が求められるシステムを作るのに向いています。
Rustのデメリットと注意点
もちろん、良いことばかりではありません。Rustにも弱点はあります。
学習コストが高い
Rustは「学習曲線が急である(習得が難しい)」とよく言われます。先ほどの「所有権」などのルールが厳しいため、初心者は「コンパイラ先生」に何度も怒られてしまい、心が折れそうになることがあります。
Pythonなら1行で書けることが、Rustだと数行書かなければならないこともあります。
ライブラリがまだ少ない
AI開発のための便利な道具箱(ライブラリ)の数は、現時点では圧倒的にPythonの方が多いです。
Pythonには「PyTorch」や「TensorFlow」といった超有名な道具が揃っています。Rustにも「Candle」や「Burn」といった道具が出てきていますが、まだ発展途上です。
今後の学習の指針
ここまで読んで「Rust、難しそうだけどやってみたい!」と思ったあなた。素晴らしいチャレンジ精神です。
これからAI開発×Rustを目指すなら、以下のステップで進めてみてください。
- まずはRustの基礎文法を学ぶいきなりAIを作るのではなく、まずは「The Rust Programming Language(通称:The Book)」という公式の教科書(日本語版もあります)を読んで、所有権の概念を理解しましょう。
- 簡単な計算プログラムを作ってみる電卓のような簡単なものを作り、コンパイラに怒られる経験を積んでください。エラーメッセージを読む力がつきます。
- Rust製のAIライブラリに触れる基礎ができたら、「Burn」や「Tch-rs」といったライブラリを使って、シンプルなAIモデルを動かしてみましょう。
RustはPythonを置き換えるものではなく、Pythonと協力してより良いものを作るためのパートナーです。PythonでAIの設計図を書き、スピードが必要な部分だけRustで書く、といった使い方も増えています。
新しい技術を学ぶことは、あなたの可能性を大きく広げます。焦らず、少しずつ、Rustの世界を楽しんでくださいね!
【AI開発】Google発「Go言語」はPythonの代わりになる?シンプルで高速な実力とは
前回はRustについてお話ししましたが、今回はまた別のユニークな選択肢を紹介させてください。Googleが作ったプログラミング言語、「Go(ゴー)」です。正式にはGolang(ゴーラング)とも呼ばれています。
みなさんはGoogle検索やYouTubeを毎日使っていますよね。あの巨大なシステムを支えている技術の一つが、このGo言語なんです。
AI開発といえばPythonが絶対的な王者ですが、最近では「システムに組み込むならGoがいいんじゃない?」という声も聞こえてきます。
なぜ今、Goが注目されているのか。そして、AI開発においてどのような力を発揮するのか。初心者の方にもわかるように、ゆっくり紐解いていきましょう!
AI開発におけるGoの立ち位置
Goを一言で表すなら「シンプルで力持ちな現場監督」です。
Pythonは「万能な魔法使い」で、難しい呪文(ライブラリ)を使えばなんでも出してくれます。でも、動きが少しゆっくりです。一方、Goは魔法は使えませんが、基礎工事や組み立て作業がめちゃくちゃ速いんです。
AIそのものを作る研究段階ではPythonが強いですが、そのAIを使って実際にサービスとして動かす段階(実運用)では、Goの「速さ」と「安定感」が好まれることがあります。
専門用語で読み解くGoのすごさ
Goを理解するためのキーワードを2つ紹介します。これを知っていると、エンジニアとの会話が弾むかもしれませんよ。
1. 並行処理(へいこうしょり)
これがGoの最大の武器です。
コンピュータは同時にたくさんの仕事をこなさなければなりません。これを料理に例えてみましょう。
Pythonの場合、一人のシェフが「野菜を切る」「お湯を沸かす」「肉を焼く」を順番にこなします。どれか一つに時間がかかると、全体の完成が遅れてしまいますよね。
Goには「ゴルーチン(Goroutine)」という機能があります。これは、シェフが瞬時に「分身」を作り出すようなものです。メインのシェフが指示を出すと、数千、数万もの小さな分身たちが一斉に野菜を切り、お湯を沸かします。
これを式で表すと、こんなイメージになります。
作業時間 全体の作業量
分身の数
分身の数が多ければ多いほど、作業時間は短くなりますよね。Goはこの分身を作るコストが驚くほど低いので、大量のデータを同時に処理するAIサーバーを作るのに向いているのです。
2. コンパイル言語(コンパイルゲンゴ)
プログラムを実行する方法の違いです。
Pythonは「インタプリタ言語」と呼ばれ、プログラムを実行する瞬間に、翻訳機が一行ずつ機械語(コンピュータが分かる言葉)に翻訳しながら進みます。翻訳しながら読むので、どうしても時間がかかります。
Goは「コンパイル言語」です。これは、実行する前にプログラム全体を一度に翻訳(コンパイル)してしまう方式です。
例えるなら、海外のニュースを「同時通訳」で聞くのがPython、「翻訳済みの原稿」を読むのがGoです。翻訳済みの原稿を読むほうが、スラスラと早く読めますよね。この違いが、AIを動かしたときのレスポンス速度に直結します。
GoでAI開発をするメリット
では、あえてPythonではなくGoを選ぶ理由は何でしょうか。
シンプルで読みやすい
Goは「誰が書いても同じようなコードになる」ように設計されています。複雑な書き方ができないようになっているのです。
「えっ、不便じゃないの?」と思うかもしれませんが、チームで開発するときにはこれが大きなメリットになります。他人が書いたコードでも読みやすく、修正がしやすいからです。AI開発はチーム戦ですから、この読みやすさは大きな助けになります。
配布が簡単
Goで作ったプログラムは、翻訳済みの1つのファイル(バイナリファイル)になります。
これの何がすごいかというと、Pythonのように「実行するパソコンにPythonをインストールして、ライブラリをいくつも入れて…」という準備がいらないのです。
そのファイルさえあれば、どんなサーバーでもすぐにAIを動かせます。これを「シングルバイナリ」と呼びます。
Goのデメリットと注意点
もちろん、弱点もあります。正直にお伝えしますね。
AI用のライブラリがまだ少ない
これが最大の悩みどころです。Pythonには数え切れないほどのAI用ツールが揃っていますが、Goはまだ発展途上です。
「Gorgonia」という有名なライブラリなどもありますが、Pythonの便利さに慣れていると、少し不便に感じるかもしれません。最新のAI論文を実装しようとしても、Goの資料が見つからないことも多いです。
データの分析には向かない
データのグラフを書いたり、統計処理をして試行錯誤したりする作業は、今のところPythonの方が圧倒的に楽です。Goは「作ったAIを動かす」のは得意ですが、「AIを試行錯誤して作る」段階では少し手間がかかります。
今後の学習の指針
ここまで読んで、Goに興味を持っていただけましたか?
もしGoでAI開発に関わりたいなら、以下のステップをおすすめします。
- A Tour of Goをやってみる公式サイトにある「A Tour of Go」というチュートリアルが非常に優秀です。日本語で、ブラウザ上で実際にコードを動かしながら基礎を学べます。
- Webサーバーを作ってみるAIの前に、Goが得意なWebサーバーを作ってみましょう。ユーザーからのアクセスを受け付ける仕組みを学ぶことは、将来AIをサービス化するときに必ず役立ちます。
- GoのAIライブラリを触ってみる基礎ができたら、「Gorgonia」などを使って簡単な計算や機械学習を試してみましょう。
最初は「Pythonの方が楽じゃん!」と思うかもしれません。でも、システム全体のスピードや安定性を考え始めたとき、Goはあなたの頼もしい相棒になってくれるはずです。
プログラミング言語は適材適所です。PythonとGo、それぞれの良さを知って、最強のエンジニアを目指してくださいね!
【AI開発】Webエンジニア必見!TypeScriptでブラウザ上で動くAIを作る未来
これまで「Python」「Rust」「Go」と紹介してきましたが、今回は少し毛色の違う、でも非常に身近な言語を紹介します。Web開発の世界で今もっとも人気があると言っても過言ではない「TypeScript(タイプスクリプト)」です。
普段、みなさんが見ているWebサイトやアプリ。その多くがJavaScript、そしてこのTypeScriptで作られています。「えっ、Webサイトを作る言語でAI開発ができるの?」と驚かれるかもしれませんね。
実は今、AIを「サーバー」ではなく、みなさんの「ブラウザ(Google ChromeやSafariなど)」の中で直接動かす技術が注目されているのです。
なぜ、重たい計算が必要なAIをブラウザで動かす必要があるのか。そこには、Pythonだけでは解決できない課題を突破するカギが隠されています。
一緒にその秘密を探っていきましょう!
AI開発におけるTypeScriptの立ち位置
TypeScriptを一言で表すなら、「しっかり者の店舗スタッフ」です。
Pythonなどのサーバー側で動く言語は「工場の職人」です。すごい技術を持っていますが、お客さん(ユーザー)からは遠い場所にいます。何か頼むときは、注文書を送って、完成品が届くのを待たなければなりません。
一方、TypeScriptはブラウザという「お店」の中で働いています。お客さんの目の前で、ササッと料理を仕上げて提供できるのです。
これまでのAIは「工場(サーバー)」で計算していましたが、最近はパソコンやスマホの性能が上がったため、「お店(ブラウザ)」でも十分なAI処理ができるようになってきました。
専門用語で読み解くTypeScriptのすごさ
ここで、TypeScriptでのAI開発を理解するために重要なキーワードを2つ解説します。
1. クライアントサイド実行(クライアントサイドじっこう)
通常、AIチャットボットなどに質問すると、その質問文はインターネットを通って遠くの巨大なコンピュータ(サーバー)に送られ、そこで答えを作って送り返してきます。
しかし、TypeScriptを使えば「クライアントサイド」、つまりあなたの持っているスマホやパソコンの中でAIを動かすことができます。
これを「手巻き寿司」に例えてみましょう。
サーバー処理(Pythonなど)は「宅配寿司」です。注文してから届くまで時間がかかりますし、住所(個人情報)を教える必要があります。
クライアントサイド処理(TypeScript)は「手巻き寿司」です。材料さえあれば、自分の目の前で、自分の好きなタイミングですぐに作って食べられます。
これを簡単な式で表すとこうなります。
従来の待ち時間 計算にかかる時間
通信にかかる時間
TypeScriptの場合、この「通信にかかる時間」を限りなくゼロにできるのです。
2. 型安全性(かたあんぜんせい)
TypeScriptは、もともと「JavaScript(ジャバスクリプト)」という言語の進化版です。JavaScriptは非常に自由な言語で、ルールがゆるゆるでした。
「数値を入れるはずの場所に文字を入れてしまった!」というミスがあっても、動かすまで気づかないことが多かったのです。
TypeScriptは、そこに「型(Type)」という厳しいルール(設計図)を導入しました。「ここは数値だけ!」「ここは文字だけ!」とあらかじめ決めておくことで、AIのような複雑なプログラムを書いても、ミスを未然に防ぐことができます。
Webサイトを作るだけでなく、AIという精密機械を作るのにも耐えられる信頼性を手に入れたわけですね。
TypeScriptでAI開発をするメリット
では、ブラウザでAIを動かすと、どんな良いことがあるのでしょうか。
プライバシーが守られる
これが最大のメリットです。
例えば、カメラを使って「今の表情から感情を読み取るAI」を作るとします。サーバーに画像を送る方式だと、「自分の顔写真がネットの向こうに送られるのは怖いな」と感じませんか?
TypeScriptを使ってブラウザ内で完結させれば、画像データはあなたのパソコンから一歩も外に出ません。これなら安心して使えますよね。医療データや個人の日記など、秘密にしたい情報を扱うAIに最適です。
オフラインでも使える
インターネットに繋がっていなくてもAIが使えます。
電波の悪い地下鉄の中や、海外旅行中の飛行機の中でも、翻訳AIや画像認識AIがサクサク動く。これはユーザーにとって非常に便利な体験になります。
TypeScriptのデメリットと注意点
もちろん、万能ではありません。ブラウザならではの弱点もあります。
マシンスペックに依存する
AIを動かすのは、ユーザーの持っているスマホやパソコンです。
最新のiPhoneを使っている人はサクサク動いても、数年前の古いパソコンを使っている人の画面では動きがカクカクしてしまう、なんてことが起こり得ます。Pythonのように高性能なサーバーを使えるわけではないので、あまりに巨大なAIを動かすのは難しいです。
Pythonの資産をそのまま使えない
AI業界の標準はやはりPythonです。Pythonで作られた便利なプログラムをTypeScriptで使うには、書き直したり、特別な変換ツール(TensorFlow.jsなど)を使ったりする手間がかかります。
今後の学習の指針
「Webも好きだし、AIもやってみたい!」という欲張りなあなたには、TypeScriptでのAI開発はとても楽しい分野になるはずです。
これから始めるなら、以下のステップを意識してみてください。
- TypeScriptでWebサイトを作れるようになるまずは基本です。HTML/CSSと合わせて、動的なWebページを作れるようになりましょう。ReactやVue.jsといったフレームワークも使えると最高です。
- TensorFlow.jsを触ってみるGoogleが提供している「TensorFlow.js」というツールを使えば、ブラウザ上でJavaScript/TypeScriptを使ってAIを動かせます。公式のデモがたくさんあるので、遊んでみるだけでも感動しますよ。
- 既存のモデルをWebに乗せてみる自分で一からAIを作るのは大変です。まずは公開されている「学習済みモデル(賢くなったAI)」を持ってきて、自分のWebサイトに組み込んでみましょう。「カメラに映った物体を認識するサイト」などが作れたら、立派なAIエンジニアの仲間入りです。
AIは「遠くにあるすごいコンピュータ」から、「あなたの手元にあるパートナー」へと進化しようとしています。その最前線に立てるのがTypeScriptです。
Webの技術を使って、世界中の人のブラウザにAIを届けてみませんか?
【AI開発】準備0秒でスタート?「JavaScript」で体験する一番身近なAIプログラミング
ここまで、Python、Rust、Go、TypeScriptと、少し本格的なプログラミング言語を紹介してきました。でも、「環境構築って難しそう」「もっと手軽にAIを触ってみたい」と感じている方もいるのではないでしょうか。
そんなあなたに朗報です。今回は、世界で最も身近な言語、「JavaScript(ジャバスクリプト)」でのAI開発についてお話しします。
実を言うと、みなさんが今この記事を読んでいるブラウザ(ChromeやEdgeなど)には、すでにJavaScriptを動かすエンジンが搭載されています。つまり、あなたは今すぐにでもAI開発を始める準備が整っているのです。
特別なソフトをインストールする必要もありません。世界一敷居が低いAI開発の世界へ、一緒に飛び込んでみましょう!
AI開発におけるJavaScriptの立ち位置
JavaScriptを一言で表すなら、「クラスの人気者で、みんなの遊び相手」です。
Pythonなどの言語は、研究室にこもって難しい計算をするのが得意な「博士」タイプです。しかし、JavaScriptはユーザー(あなた)の目の前にいて、クリックしたり動かしたりするとすぐに反応してくれる、サービス精神旺盛な言語です。
これまでは「Webサイトに動きをつけるための言語」と思われていましたが、最近ではパソコンやスマホの性能が上がったおかげで、ブラウザ上でAIを動かすという離れ業ができるようになりました。
専門用語で読み解くJavaScriptのすごさ
JavaScriptでAIを扱う面白さを理解するために、2つのキーワードを紹介します。例え話を使って、やさしく解説しますね。
1. 推論(すいろん)と学習済みモデル
AI開発には大きく分けて「学習」と「推論」という2つのフェーズがあります。
「学習」は、教科書を読んで猛勉強する段階です。これにはものすごい体力(計算能力)が必要なので、通常はPythonと高性能なコンピュータが行います。
「推論」は、勉強した知識を使ってテストの問題を解く段階です。
JavaScriptはこの「推論」が非常に得意です。
例えるなら、Pythonという凄腕シェフが時間をかけて作った「秘伝のカレーソース(学習済みモデル)」があるとします。JavaScriptは、そのソースを使って、お客さんの目の前でサッと「カレーライス」として提供するウェイターの役割を果たします。
ウェイターは調理(学習)はしませんが、お客さんに届ける(推論する)スピードは誰よりも速いのです。
これを数式風に表現すると、以下のようになります。
ユーザー体験 高度な頭脳(モデル) 親しみやすさ(JavaScript)
難しい計算は事前に済ませておき、美味しいところだけをJavaScriptで手軽に味わうことができるのです。
2. WebGL(ウェブジーエル)
「ブラウザでAIなんて動かしたら、画面がカクカクするんじゃないの?」と心配になりますよね。そこで登場するのがWebGLという技術です。
コンピュータの中には、映像をきれいに映すための「GPU」という強力な部品が入っています。普段はゲームの3D映像などを処理しているのですが、WebGLは、このGPUの力をWebサイト上で借りることができる仕組みです。
例えるなら、普段は自転車(CPU)で配達しているけれど、重い荷物(AIの計算)があるときだけ、スポーツカー(GPU)を借りて爆走するようなものです。
この技術のおかげで、JavaScriptでも驚くほどスムーズに画像認識や音声分析ができるようになりました。
JavaScriptでAI開発をするメリット
では、PythonではなくJavaScriptを選ぶ理由、特に初心者にとってのメリットは何でしょうか。
視覚化(ビジュアライゼーション)が楽しい
これが最大の魅力です。JavaScriptはWebページを作る言語なので、AIが何を考えているかを画面に表示するのが大得意です。
例えば、カメラに映った手の動きに合わせて画面上のキャラクターを動かしたり、AIが生成した音楽に合わせて波形をアニメーションさせたり。
「計算結果としての数字」を見るだけでなく、「動く作品」としてAIを表現できるので、作っていて飽きません。
誰でもすぐに試せる
Pythonで作ったAIを友達に使ってもらおうとすると、サーバーを用意したり、少し難しい設定が必要だったりします。
JavaScriptなら、インターネット上にWebページとして公開するだけです。URLを友達に送れば、スマホでもパソコンでも、クリック一つであなたの作ったAIアプリを体験してもらえます。
「見てみて!これ作ったんだ!」と自慢するには、最高の言語です。
JavaScriptのデメリットと注意点
もちろん、得意なことばかりではありません。
大規模な「学習」には向かない
先ほど「推論」が得意と言いましたが、逆を言えば、ゼロからAIを賢くする「学習」は苦手です。
ブラウザはあくまでWebページを見るためのソフトなので、何時間もかかるような重い計算をさせると、ページが固まったり、スマホの電池が急激に減ったりしてしまいます。本格的なAIを一から作りたい場合は、やはりPythonに軍配が上がります。
データ処理の道具が少ない
Pythonには、データを分析したり加工したりするための便利な道具が山のようにあります。JavaScriptにも増えてきてはいますが、まだPythonほど充実していません。
今後の学習の指針
「まずは動くものを作ってみたい!」と思ったあなたには、JavaScriptは最高の入り口です。以下のステップで進めてみてください。
- ml5.js(エムエルファイブ)を使ってみるこれが一番のおすすめです!「ml5.js」というライブラリは、初心者向けに作られていて、わずか数行のコードで「画像認識」や「ポーズ検出」ができます。公式サイトのサンプルをコピペするだけで、魔法のように動きますよ。
- p5.jsと組み合わせてみる「p5.js」という、絵を描くためのライブラリと組み合わせると、AIで認識した顔の上にイラストを描く、といった「スノー(SNOW)」のようなアプリが簡単に作れます。
- Teachable Machineを試すGoogleが提供している「Teachable Machine」というサイトを使ってみてください。コードを書かずにブラウザだけでAIモデルを作り、それをJavaScriptとして書き出すことができます。
AI開発は、必ずしも難しい数式と格闘することだけではありません。既存のすごい技術を組み合わせて、楽しいアプリを作ることも立派な開発です。
まずはブラウザを開いて、JavaScriptの世界でAIと遊んでみませんか?
【AI開発】「Java」はオワコンじゃない!大企業が信頼する堅実なAI構築術
ここまで、流行りのPythonや、新進気鋭のRust、Goといった言語を紹介してきました。でも、プログラミングの世界には、長年にわたって王座に君臨し続けている「巨人」がいることを忘れてはいけません。
そう、「Java(ジャバ)」です。
「えっ、Javaって学校の授業で習う、ちょっと古くて堅苦しい言語でしょ?」なんて思っていませんか?
実は、世界中の銀行のシステムや、あの大人気ゲーム『マインクラフト』、そしてAndroidスマホのアプリなど、私たちの生活を支える重要な部分はJavaで作られていることが多いのです。
AI開発においても、この「Java」が意外なほど頼りにされている場所があります。なぜ、最新のAI技術にベテランのJavaが使われるのか?
今回は、その質実剛健な魅力に迫ってみましょう!
AI開発におけるJavaの立ち位置
Javaを一言で表すなら、「真面目で頑丈な、ベテラン建築士」です。
Pythonが「ひらめきをすぐに形にする発明家」だとしたら、Javaは「設計図通りに、絶対に倒れないビルを建てる建築士」です。
AIの研究や実験はPythonが得意ですが、いざそのAIを社会インフラ(銀行や大規模な通販サイトなど)に組み込もうとすると、Pythonだけでは強度が足りないことがあります。そこで、安全性と実績のあるJavaの出番となるのです。
「新しいAI」を「既存の巨大なシステム」に融合させる。その接着剤として、Javaは最強の選択肢なんですよ。
専門用語で読み解くJavaのすごさ
Javaがなぜこれほど信頼されているのか、その秘密を2つのキーワードで解説します。高校生のみなさんにも伝わるよう、身近な例で説明しますね。
1. JVM(ジェイ・ブイ・エム)
これは「Java Virtual Machine(ジャバ・バーチャル・マシン)」の略です。日本語では「Java仮想マシン」と言います。
通常、プログラムというのは、Windows用、Mac用、Linux用と、動かすコンピュータに合わせて書き直す必要があります。これは、国によって言語が違うので、いちいち翻訳し直すのに似ています。
しかし、JavaにはJVMという「専属の通訳さん」がいます。
プログラマーはJava語で命令を書くだけ。あとは、このJVMという通訳さんが、WindowsさんにもMacさんにも、その場に合わせて完璧に通訳して伝えてくれるのです。
これを式でイメージするとこうなります。
開発の手間 作りたい機能の数
対応する機種の数
通常は機種が増えるほど手間(分母)が増えますが、Javaはこの「対応する機種の数」を気にしなくていいのです(常に1と考えていい)。
「一度書けば、どこでも動く(Write Once, Run Anywhere)」。このスローガンこそが、Javaが世界中に広まった最大の理由です。
2. オブジェクト指向(オブジェクトしこう)
これはプログラミングの考え方の一つで、少し難しい概念ですが、Javaはこの考え方を厳格に採用しています。
「たい焼き」で例えるのが一番わかりやすいでしょう。
プログラムの中で、「あんこ入りたい焼き」や「クリーム入りたい焼き」を一つひとつ作るのは大変ですよね。そこで、まず「たい焼きの金型(クラス)」を作ります。
一度しっかりした金型を作ってしまえば、あとは中身(データ)を変えるだけで、大量のたい焼き(オブジェクト)を量産できます。
大規模なAIシステム開発では、何千、何万行ものコードを書きます。この「金型」を作って整理整頓する仕組みがあるおかげで、たくさんのエンジニアが協力して作業しても、混乱せずに開発を進められるのです。
JavaでAI開発をするメリット
では、AI開発においてJavaを選ぶメリットは何でしょうか。
既存のシステムにAIを組み込みやすい
これが最大の強みです。
世の中の企業のシステムは、多くがJavaで作られています。もしPythonでAIを作ると、「PythonとJavaをつなぐための工事」が必要になります。
でも、最初からJavaでAIを作ってしまえば、既存のシステムの中にスムーズに組み込むことができます。企業のシステム担当者からすれば、「慣れ親しんだJavaでAIも動かせるなら、それが一番安心だ」となるわけです。
エラーに強く、動作が安定している
Javaは「静的型付け」というルール(Rustの回でも少し触れましたね)を採用しており、書き方が非常に厳格です。
少しでも曖昧な書き方をすると、実行する前に「ここ、間違ってますよ!」と厳しく指摘されます。面倒に感じるかもしれませんが、そのおかげで、いざ動かしたときに「急に止まった!」という事故が非常に少なくなります。
24時間365日動かし続ける必要があるシステムでは、この「安定感」が何よりも代えがたい価値になります。
Javaのデメリットと注意点
もちろん、ベテランならではの悩みもあります。
コードが長くなりがち
Pythonなら1行で書ける処理が、Javaだと5行、10行とかかってしまうことがあります。
Javaの記述量 Pythonの記述量
5
冗談抜きで、これくらいの差が出ることがあります。そのため、「ちょっとAIを試してみたい」という実験段階では、書くのが大変すぎて嫌になってしまうかもしれません。
AIライブラリの選択肢が少ない
Pythonに比べると、AIを作るための道具(ライブラリ)は少ないです。「Deeplearning4j」という有名なライブラリがありますが、最新の論文で発表されたAI技術をすぐに試したい場合、Java版の道具が見つからないことが多いです。
今後の学習の指針
「将来は大きな企業で、大規模なシステムの開発に関わりたい!」という堅実派のあなたには、Javaは最高の武器になります。
以下のステップで学んでみてください。
- Javaの基礎文法とオブジェクト指向を学ぶまずは「クラス」や「インスタンス」といった概念を理解しましょう。最初は難しく感じるかもしれませんが、ここを乗り越えればプログラマーとしてのレベルが一気に上がります。
- Deeplearning4jを使ってみるJavaでAI(ディープラーニング)をするなら、このライブラリが定番です。チュートリアルを見ながら、簡単なニューラルネットワークを作ってみましょう。
- Spring BootでWebアプリ化するJavaで作ったAIを、Web上で使えるようにするために「Spring Boot(スプリング・ブート)」というフレームワークを学びましょう。これが使えると、就職活動でも非常に強力なアピールになります。
Javaは、派手さはないかもしれませんが、社会の土台を支える「縁の下の力持ち」です。
流行り廃りに流されず、長く使える技術を身につけたいなら、ぜひJavaの世界に足を踏み入れてみてください。きっと、あなたのエンジニアとしての地力を底上げしてくれますよ!
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投稿者プロフィール
- 代表取締役
-
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
この記事に間違い等ありましたらぜひお知らせください。
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