パーセプトロンとシナプス可塑性の共通点と相違点:人工知能と脳はどこまで似ているのか?

こんにちは。ゆうせいです。

「シナプス可塑性」は、生物の脳が学習するしくみ。
そして「パーセプトロン」は、人工知能(AI)で使われる学習モデルの一種です。

「この2つって似ているの?」という疑問を持つ人も多いでしょう。
実は、パーセプトロンはシナプスのしくみをヒントに生まれたんです!

今回は、この2つの共通点と相違点をわかりやすく、かつ正確に解説していきます!


まずは用語の整理

用語簡単な説明
シナプス可塑性生物の脳で、神経細胞(ニューロン)どうしのつながり(重み)が経験により変わる性質。学習や記憶の基盤。
パーセプトロン人工知能の基礎となる計算モデル。入力を受け取り、重みに基づいて出力を決める単純な「人工ニューロン」。

共通点(似ているところ)

① 重みが変化することで学習が進む

どちらも、接続の「重み」が変化することで、学習が進んでいきます。

  • シナプス可塑性では、ニューロン間のシナプスの強さ(=伝達のしやすさ)が変化します。
  • パーセプトロンでは、入力にかかる重み(重み係数)が学習ルールに従って更新されます。

数式で見ると共通点がはっきり!

パーセプトロンの重み更新式(最も基本形):

w_i \leftarrow w_i + \eta (t - y) x_i

  • $w_i$:重み
  • $\eta$:学習率
  • $t$:正解(教師信号)
  • $y$:モデルの出力
  • $x_i$:入力値

これは、ヘッブ則(Hebbian rule)や誤差修正学習と共通しています。

② 入力と出力を結ぶ「ネットワーク構造」

  • 生物の脳も、神経細胞がネットワークをつくって信号を伝えます。
  • パーセプトロンも、入力→重み→出力 という構造になっていて、ニューラルネットワークでは多数のパーセプトロンを組み合わせています。

相違点(ちがうところ)

項目生物のシナプス可塑性パーセプトロン
信号の伝達方法電気+化学(神経伝達物質)数値的な演算(重み付き和)
学習の方法経験・反復に基づく。教師なしも多い教師あり学習が基本(正解を与えて修正)
学習の柔軟性非線形で複雑。時系列・感情も関与基本は線形モデル(単純な分類)
エネルギー効率非常に高い(脳は20W程度)高性能GPUなどが必要で非効率な場合もある
忘れる能力必要に応じて「忘れる」(LTDなど)基本的に「忘れる」は手動(学習率や重み初期化)

脳の消費電力「20W」ってどれくらい?身近な電化製品で例えてみよう

「人間の脳はたった20ワットで動いている」と聞くと、驚く人も多いのではないでしょうか?
でも、20Wって実際どれくらいの電力なのか、イメージしにくいですよね。

では、身近な電化製品で考えてみましょう。

たとえば、LED電球。
一般的な明るさのLED電球はおよそ8〜10Wです。つまり、脳が消費する電力は明るいLED電球を2つ分くらい。これだけで、私たちは思考したり、運動したり、感情を抱いたりしているのです。

また、スマートフォンの充電器も10〜20Wの出力があるものが多く、脳の消費電力とほぼ同じ。
1日中考えごとをしていても、脳はスマホをゆっくり充電しているくらいのエネルギーしか使っていないというわけです。

それに比べて、ドライヤーや電子レンジは1000W以上。
脳の50倍以上の電力を消費します。これを見ると、脳がいかに高効率な情報処理装置かがよくわかりますね。

たった20Wでこのパフォーマンス。
人工知能やスーパーコンピューターが消費するエネルギーと比べても、人間の脳は圧倒的に省エネなのです。

この数字を知ると、脳の仕組みにますます興味が湧いてきませんか?


たとえ話で理解しよう!

  • 脳(シナプス可塑性):まるで職人の手作業。経験や感覚から、道具の使い方を覚えていく。
  • パーセプトロンマニュアル通りに作業するロボット。正解を見せられて、それに向けて調整する。

どちらも「学ぶ」けれど、やり方も、適応力も大きく違うんですね。

この「シナプス可塑性(しなぷすかそせい)」という言葉、ちょっと難しそうに聞こえませんか?
でも実は、私たちが新しいことを覚えたり、上達したりする仕組みの中心にある、とても重要な現象なんです。

次は、「シナプス可塑性とは何か?」について、できるだけかみくだいて、丁寧に説明していきます!


シナプス可塑性とは?

簡単に言うと、

「神経細胞のつながり(シナプス)が、経験によって強くなったり、弱くなったりする性質」

です。

この変化のことを「可塑性(plasticity)」と呼びます。
可塑性とは、「変化できる性質」のこと。粘土が形を変えるように、シナプスも状況に応じて変わるんです!


図で見るシナプス可塑性のイメージ

[Before]
ニューロンA ───●───> ニューロンB
(信号が弱い)

[After 練習や反復によって]
ニューロンA ─━━━▶ ニューロンB
(信号が強く伝わる)

●:シナプスが太く・反応しやすくなる


なぜ重要なのか?

この仕組みがあるからこそ、私たちは:

  • 新しいことを学べる
  • 失敗を経験として活かせる
  • 繰り返しで上達できる

たとえば、自転車の乗り方を何度も練習すると、体が自然に覚えますよね?
これは、何度も同じ神経回路が使われることで、シナプスが強化されたからなんです!


シナプス可塑性の2つのタイプ

タイプ説明イメージ
長期増強(LTP)シナプスが強くなる変化よく使う道が広くなる
長期抑圧(LTD)シナプスが弱くなる変化使わない道が細くなる

【LTP:Long-Term Potentiation】

これは、「よく使う神経回路のシナプスが強化される」現象。
記憶の定着や、学習にとても深く関係しています。

【LTD:Long-Term Depression】

逆に、あまり使われない回路は「弱くなる」ようになっています。
これは、不要な情報を忘れるために大切な仕組みです。


数式で表すと(少しだけ専門的に)

\Delta w = \eta \cdot x \cdot y

ここで:

  • $\Delta w$ はシナプスの強さの変化
  • $\eta$ は学習係数(変化のしやすさ)
  • $x$ は入力ニューロンの活動(刺激)
  • $y$ は出力ニューロンの活動(反応)

この式は、「よく一緒に活動する神経細胞どうしのつながりが強くなる」というヘッブ則(Hebbian rule)を表しています。


例え話:スマホの予測変換と同じ?

スマホで「おは」と打つと「おはよう」が出てきますよね?

これは、あなたがよくその言葉を使っているからです。
脳も同じように、「よく使う回路」はつながりを強めて、スムーズに反応できるようにするんです!


可塑性は一生変わり続ける!

昔は、「脳は大人になると変わらない」と思われていました。
でも最近の研究で、大人でも脳のシナプスはずっと変化し続けることがわかってきています。

つまり、学ぶ力や記憶力は一生伸ばせるということ!
勉強も、スポーツも、日々のトレーニングで脳はどんどん進化するんです。

共通点

  • 重みを変えることで学習する
  • 入力と出力のネットワーク構造

相違点

  • 信号の形式(脳は生化学、パーセプトロンは数学)
  • 学習方法(体験ベース vs 正解ベース)
  • 忘れるしくみの有無
  • 複雑さ・柔軟性・環境との相互作用の深さ

「運動神経がいい」とは大脳生理学的にどういうこと?

「運動神経がいい」とは、大脳の運動野・感覚野・前頭前野、小脳などが連携し、動作を素早く正確に制御できる状態を指します。視覚や触覚などの感覚情報を脳が効率よく処理し、それを滑らかな運動指令へ変換できているのです。また、繰り返しの運動によりシナプス可塑性が進み、動作が自動化・最適化されます。つまり「運動神経がいい」とは、脳内ネットワークの反応速度と精度が高いということなんです。

これまでのお話で、「シナプス可塑性」は学習や記憶にとって大事なしくみだということがわかってきましたね。
では、その変化をどうやって起こしているのか?
そのカギを握っているのが――神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)です。

次は、神経伝達物質とシナプス可塑性の関係について、しっかり噛みくだいて解説していきます!


神経伝達物質とは?

簡単に言うと、

神経細胞どうしの“メッセージ”を伝えるための化学物質

です。

脳の中では、電気信号だけではなく、化学的なやりとりも行われています。
シナプスという“すき間”では、電気はそのままでは渡れません。
そこで登場するのが、神経伝達物質です。


シナプスの流れを図で確認!

ニューロンA(送り手)
    │
    │(電気信号)
    ▼
[シナプス間隙]
    └─ 神経伝達物質(放出される)
    ▼
ニューロンB(受け手)
    └─ 受容体(レセプター)で受け取る

この「放出」と「受け取り」が何度も繰り返されることで、
シナプスの結びつきが強くなっていくんです。これがシナプス可塑性の本質です!


代表的な神経伝達物質と役割

物質名主な働き関係する可塑性
グルタミン酸興奮性。脳で最もよく使われるLTP(長期増強)を引き起こす
GABA(ギャバ)抑制性。興奮をおさえるLTD(長期抑圧)に関与
ドーパミン快楽・報酬・やる気に関係ごほうびによる学習を強化
セロトニン安定・安心感・気分調整記憶の定着に影響
ノルアドレナリン注意力・覚醒集中力を高めて学習を促進

特にグルタミン酸は、学習と記憶の「主役」です!


グルタミン酸とLTPの関係:もう少し専門的に

グルタミン酸は、受け手のニューロンにあるNMDA受容体AMPA受容体と結びつきます。
この働きがシナプスを強化する――つまり、LTP(長期増強)の引き金になるのです。

NMDA受容体とLTPの関係

  • 同時に強い刺激が入ると、NMDA受容体が開き、Ca²⁺(カルシウムイオン)が流れ込む
  • その結果、AMPA受容体が増える
  • 情報の流れが強化される(=シナプス可塑性)

数式で整理(少し難しめ)

\text{LTP} \propto \int \left[ \text{[Ca}^{2+}] \times \text{Glutamate} \right] dt

この式は、
「グルタミン酸とカルシウムの相互作用が時間的に積み重なることで、LTPが起こる」
ということを意味しています。


例えで理解してみよう!

「神経伝達物質」は、脳の中のメール便のようなもの。
送り手(ニューロンA)が「これ覚えておいてね!」とメールを送ると、受け手(ニューロンB)が「了解!」と返信する。

そのやり取りが増えれば増えるほど、信頼関係が深まり、メッセージも通りやすくなる。
これが「シナプスが強くなる」=可塑性が高まるということなんです!


神経伝達物質が足りないとどうなる?

  • 学習能力の低下:伝達物質がうまく出ないと、シナプスが強くならない
  • 記憶障害:グルタミン酸やアセチルコリンの異常はアルツハイマー型認知症に関連
  • うつ病・ADHD:ドーパミンやセロトニンの不足が関与することも

神経伝達物質は、脳のパフォーマンスを左右する超重要物質なんですね。

今後の学習のヒント!

・「多層パーセプトロン(MLP)」や「誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)」を学んでみよう!
・「スパイキングニューラルネットワーク(SNN)」は、生物の神経活動に近い人工モデルです!
・さらに、「強化学習」と「報酬系(ドーパミン)」を比べると、脳とAIの共通点がもっと見えてきます。

人間の脳をまねて生まれた人工知能。その根っこには、シナプスの学びがあるんですね!
また気になるテーマがあれば、気軽に質問してください!

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投稿者プロフィール

山崎講師
山崎講師代表取締役
セイ・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役。
岐阜県出身。
2000年創業、2004年会社設立。
IT企業向け人材育成研修歴業界歴20年以上。
すべての無駄を省いた費用対効果の高い「筋肉質」な研修を提供します!
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